第315話

 家庭菜園の土をいじった次の日。朝ご飯を食べると砂岩とミライが話をするため私達はリビングから出ていった。先生やオモチもだ。私は途中からの参加らしい。今回はタワシにも絶対に聞かないようにと砂岩が言っていた。何について話をするつもりなんだろう。もしかしたら私が寝ている間に砂岩とミライが話をしたのかもしれない。


「じゃあ悪いけど場所を借りるね~」


「良いよ。私達は縁側の方にいるからね。みんな行くよ~」


「ヤヌシ、縁側で何するの~?」


「せっかくだから今日のお昼ご飯は外で食べようかなと思って。ベリーさんがいるから火を使っても大丈夫だしね。ベリーさんは協力してくれるかな?」


「喜んで協力するって言ってるわ~」


「ありがとう。なら準備していこうか。トウキ達。いつも使っているバーベキューコンロとかを持ってきてくれない?所長さんが使っていた方なんだけど分かる?」


「大丈夫よ!みんな、行きましょう!」


 トウキ達が私の体から離れていく。トウキ達は所長さんがバーベキューコンロで作業した時に色々と聞いていた。必要な物は分かっているだろう。


「それでお昼ご飯は何を作るんですか?」


「野菜炒めにしようかなと思ってます。あれなら簡単だし。焼き肉のたれもありますしね」


「焼き肉のたれ!!なら問題ありませんね。あれは良い物です」


 焼き肉のたれはみんな大好きだもんね。私も大好きだ。


「ヤヌシ~!持ってきたわよ~」


「ありがとうトウキ!ベリー!組み立てるの手伝ってくれない?」


「分かったって~」


 みんなでバーベキューコンロを組み立てて炭を入れていく。今の所は順調だね。


「ヤヌシ~。砂岩様が呼んでいるわ」


「オモチ本当?分かったよ。ならベリー、火をつけておいてくれない?」


「任せてって言ってるわ~」


「よろしくね!じゃあ行こうか。先生、オモチ、メッシュ」


 私達がリビングへ移動するとタワシが右肩に乗ってきた。え?ミライはそこで話をするの?


「お待たせヤヌシ!ここからは君も話に入ってもらいたい」


「いいよ。それで砂岩達は何について話をしているの?」


「ネコとせっけんの件だよ」


「そうよヤヌシ」


 ミライの声が右肩から聞こえる。


「ネコは育樹との契約でしょ?」


「そうだよ。新しい育樹を植えるって話だ。植えた育樹が大きくなったらネコと契約する」


「どこに植えるの?」


「オモチの住処である手水舎にしようと思っているんだ」


「ん?手水舎のどこに?あれは湖みたいになっているんでしょ?」


「私が手水舎の中心部に陸地を作ろうと思っている。そこに植えるつもりだ。それならオモチが常に見守ることが出来るからね」


 なるほど。それは安心できるね。あまりミライの近くに植えるわけにもいかないからちょうどいい塩梅だと思うよ。


「とても良い案だね。でも陸地を作るって・・・。さすが大地の『守り人』だね」


「私にかかれば簡単さ~」


 人間の常識ではありえない事なんだけどね。


「それよりも砂岩。せっけんの話を」


「そうだねミライ。ヤヌシを呼んだ主な理由はせっけんの事なんだよ。せっけんと契約する育樹をベリーの家の近くに植えようかと思っているんだ」


「そっか。そうなるよね」


「ただ問題があるんだ」


「問題?」


「この島の一番偉い人間。赤の事だけどあいつは話が通じる人間の一人。私達がこうやってこの場所で好きにできているのはあいつが自由にしていいと言っているからだ。だがベリーの場所の偉いやつはダメだ。あの人間は我々がいつも排除している人間と同じ匂いがする」


「匂い?」


「そうだ。といっても私の感覚だがな」


 久しぶりに砂岩様が出てきた。重要な話ということだろう。


「それで私はどうすれば良いの?」


「ベリーをしばらくここで預かってほしい。少なくともネコの契約が終わるまで」


ネコの契約が終わるまで?それってかなり時間がかかるんじゃない?


「ネコの契約が終わったらどうするつもり?」


「せっけんの育樹をベリーの家に持って行くわ。ここでせっけんと育樹の契約をして現地で植え直してもらう」


 ん?ちょっと待ってよ?


「せっけんの育樹はいつ育てるの?」


「育樹の選定が終わり次第すぐに植えるわ。少なくともネコのよりは早く見つかると思う」


 確かにせっけんは誰とでもうまくやりそうな感じがするよ。契約主の性格を考えて育樹の種を選んでいるってミライが言ってたしね。


「でも何でベリーさんをそんな長期間、我が家であずかる必要があるの?」


「その間に守護者を集めるからだ。あの場所をこの場所と同じような感じにするつもりだ」


「せっけんが契約する育樹を守るため?」


「そうだ。それにベリーとせっけんもな」


「良いかい砂岩。その話は私にする前にベリーさんにするべきだ。だって当事者だよ?確かに私も当事者だけど家から離れる必要があるのは彼女だ」


「・・・。それもそうだな。我々だけの話で決めるわけにはいかないか」


「そうだよ。それともう一つ気になっていることがあるんだ。ミライ。もしせっけんが育樹と契約した場合、契約した育樹からあまり離れられないの?メッシュの力で移動もできなくなるのかな?」


「分からないわ。何でそんなことを聞くの?」


 何で?大切なことじゃないか。


「大切なことだからだよ。ネコとせっけん。この子達が育樹と契約した場合。育樹から離れられなくなったらもう二度と会えなくなるじゃないか。こんなに仲良しなのに」


 私はネコとせっけんを触る。ネコ達は私の手を掴んできた。


「それは・・・」


「仕方ない。これが守護者の定めだ」


「なら私は反対だ。確かに地球は大切だ。でも私にとってこの子達も大切なんだ」


 何か方法があるはずだ。考えなければ。

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