「春さん」こと「飯田春香」目線②

 居酒屋に入ってそれなりに時間がたった。話は主に『守り人』達の事や青山さんが飼っている猫の話だった。可愛いもの好きが集まるとやっぱりそうなるわよね。

 私は少し気になっていたことを青山さんに聞いてみた。


「青山さん。トウキちゃんの手に触れたのって本当?」


「え?それ本当?」


 娘の夏海が過剰に反応するが無視する。


「はい。箸の使い方を教えてあげたので」


「抱っこもしてたわよね。青ちゃんの許可を取っていなかったから写真は取らなかったけど」


 優ちゃんが新しい情報を提供してくれる。お寿司を食べた時よね。しかも近所の魚屋さんの高いやつ。私も食べたかったわ。


「そうなの青山さん?トウキちゃんは嫌がらなかったの?」


 夏海がしつこく青山さんに聞いている。どうせ聞いてもあなたでは無理だから諦めなさい。


「別に嫌がりませんでしたよ。箸の使い方を教えるのに必要だと言ったら大人しく私の膝の上にトウキちゃんから来ました」


「なんでみんなは簡単に『守り人』達と触れ合えるの?」


「あなたは煩いから近寄りたくないからよ。それで青山さん、トウキちゃん以外のみんなとは触れ合ったの?」


「タワシちゃんとマリモちゃんは普通に触れ合いましたよ。タワシちゃん達は手のひらの上に乗ってくれました」


 それはすごいわね~。私でもまだやったことがないわ。特にマリモちゃんはあまり私達に関わってこないから。


「え、そうなの?」


 優ちゃんも知らなかったの?まぁ、ずっと『守り人』達を見ているわけじゃないから当然ね。


「はい。優さん達が話している時に遊んでましたね」


「何をして遊んでいたの?」


「猫にやるような簡単な遊びですよ。あれです。猫じゃらしを目の前で動かして遊ぶやつです」


「でも青ちゃん。あの時は猫じゃらしなんて持ってなかったじゃない」


「指でやったんですよ。猫は指でも反応しますから」


 なるほど!それは考え付かなかったわ。ペットを飼っている人ならではの考え方ね。


「始めはテーブルの上で遊んでいたのですが、試しに手の上でも出来るかな~と思ってやってみたらできちゃいました」


「私も今度やってみる!」


「あなたの場合はタワシちゃん達が近づいてこないじゃない」


 元気よく宣言した娘に現実を突きつける。まずは近づいてきてもらうことを目標にしなさい。元気だった夏海が沈んだ表情になっていた。


「春香チーフ・・・」


「良いのよ、優ちゃん。ちゃんと現実を受け入れないと」


「今度一緒に行く機会があったら私も手伝うわ。夏海ちゃん」


「本当?青山さん!」


「はい。約束しますよ」


 青山さんも簡単に約束なんかしちゃダメよ。あの娘が『守り人』達と簡単に仲良くなれるわけないじゃない。邪念しか持ってないのに。


「優ちゃんもまだトウキちゃんは無理なのよね?」


「はい・・・。一度どさくさに紛れてトウキちゃん触ろうとして拒絶された挙句、和田さんにイエローカード出されかけました・・・」


 私が知らなかっただけでこの子も何してるの?可愛いもの好きってこんな危ない事ばっかりやる人なのかしら。そうだとしたら自称友人も充ちゃんの家に連れて行くのを考え直さなくては。


「優ちゃんは大丈夫だと思っていたのに何をやっているの?今後あなた達二人だけで充ちゃんの家へ行かせるのが怖くなってきたわ」


「返す言葉もありません」


 優ちゃんが両手で顔を覆っている。恥ずかしいのね。でもあなたは普段タワシちゃん達と触れ合っている時の顔をもっと気を付けたほうが良いわよ。あれは酷いから。


「まぁまぁ春香さん。私も可愛いもの好きだから気持ちは分かります。でも自制は大切ですよ」


「でも青山さんもガチャガチャの事になったら性格代わるよね」


「え?」


 青山さんが娘から急にガチャガチャの事を言及されたので驚いている。私もさっき娘からガチャガチャの場所を聞いていた青山さんを見ているので何とも言えない。

 でも人の趣味ってそれぞれだから何も言わないわ。


「明日は私が車で迎えに行こうと思うんだけどそれでいい?」


 私は話を変えるために青山さんに明日の予定について聞いた。


「いいえ。明日は私が車を出します。申し訳ありませんが自称友人がいるので・・・」


 本来は自称友人を一人にすること自体がありえないと思うんだけど。というかなんでそんなにフットワークが軽いの?仮にも首相でしょ?本当に『守り人』達に会いたいからだとしたら普通に引くわ。


「そうね、分かったわ。じゃあうちの事業所に来てくれる?」


「いいえ。お宅に伺います。あれに変装はさせますが見られると不味いので」


 あれって・・・。一応、国の代表でしょ?


「変装ね~。分かったわ。じゃあ明日の送迎はよろしくお願いね」


「はい、お任せください!」


 私達が明日の話をしていると横の二人が携帯の動画を見てキャーキャー言っている。夏海は多少お酒が入っているけど優ちゃんは素面でしょ?なんでそんなにテンションが高いの?


「やっぱりトウキちゃんが初めて小さくなってみんなで喜んでいる時が最近のベストショットですよね~。なんでよりによってパパの撮影動画なの?」


「同感よ。所長はもっとカメラのアングルを変えてほしかったわ。カメラを一か所固定にするのはダメよ!本当はもっと可愛かったはず」


 私も可愛いものは大好きだけど、ここまでではない。純粋にこの子達の将来が心配になってきた。充ちゃんのお相手候補からこの子達を除外しようかしら。


「はいはい。そこまでにしておきなさい。じゃないと充ちゃんに言いつけるわよ」


 これを言えばこの子達には途端に静かになる。どれだけ『守り人』達と遊びたいのよ。私も少しはここでストレスを発散して帰ろうかしら。そこから私は旦那の愚痴を言いまくった。青山さんの私を見る目がすこし怯えているように見えたが気のせいだろう。

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