第205話

 メッシュが大人しくご飯を食べ始めた。今は私の膝を離れトウキ達に聞きながら色んなものを食べているらしい。そのままみんなと打ち解けてほしい。

 私はと言うとネコの世話をしていた。そのおかげでご飯が食べれない。あんなに良い匂いがするのに。


「ねぇヤヌシ君。ご飯食べたの?」


 Uさんが私に話しかけてきた。


「いいや。見ての通りネコの面倒をみていると手がふさがるのでまだ」


「代わってあげたいけど・・・。ネコちゃん、私がご飯をあげるのはダメ?オモチさん。通訳をお願いします」


「はいはい~。・・・。考えているわ」


 考えているのか!どういう心の変化だ?


「え?考えてくれているの?やっ・・・。冷静に」


 Uさんが己を律している。そこまでしなくても。


「所長さんなら良いって言ってるわ~」


「「え?」」


 私とUさんの声がハモる。まさかの所長さんを指名?Uさんから無言の圧を感じる。


「し、仕方ないわね。私が伝えてくるからちょっと待っててね」


「Uさんは大人だな~」


「何が~?」


「気にしなくていいよ」


 本当にどうでもいい事だから。Uさんやミカンちゃんにとっては別だけど。でもこの様子なら青さんも大丈夫かもしれない。


「呼ばれて来たけど何だい?」


「あれ?Uさんから聞いてないんですか?」


「━━さんがガチギレしている時と同じような目で見られたよ。何があったの?」


 私は所長さんにネコのご飯の手伝いをお願いする。


「それで僕を指名したの?何で僕?」


「それは分かりません。この子の気分かも」


「違う。その子にはちゃんと理由があるよ~」


 砂岩が話に入ってきた。所長さんの背中にいたのか。


「そうなの?」


「私が今聞いたからね」


 少し左手が震えていると思ったらネコのせいか。てっきり手が疲れかと思ってた。


「どんな理由?」


「ヘルパーさんの目が怖いって」


 やっぱりそこなのか。Uさんもミカンちゃんも意識しすぎなんだよ。


「納得だ」


 所長さんがしみじみ言う。家に一人該当者がいますもんね。


「分かったよ。僕がやろう。でもどんな感じであげれば良いの?」


 私は実際にご飯をネコにあげる。


「・・・。こんな感じです。そうだ!ネコ。私と違って所長さんなら何が食べたいかネコが手を伸ばせば代わりに取ってくれる。それくらいは自分でやるんだ。良いね。所長さんとの食事中は基本通訳禁止で」


 オモチから話を聞いて左手をしきりに叩いてくるネコ。すぐ横で何故か動画を取り始める音がする。これは絶対にUさんだ。


「なら私も所長さんと同じ条件にしようか?永遠にネコが食べたい物は食べれないよ」


 そうなると適当にご飯をあげることになる。あれ?楽でいいかも。

 私がそう言うとネコは左手を叩くことをやめた。


「よろしい。では所長さん。よろしくお願いします」


 私は右手でネコを掴み所長さんへ渡す。大人しい物だ。


「できるだけ頑張ってみるよ。僕は小さい動物は育てたことがないからね~。ちょっと楽しみだよ。じゃあネコ行こうか」


 足音が遠ざかる。


「良いんですか?追っかけなくて」


 私は近くにいるUさんへ話しかけた。


「え?」


「さっきからそこで動画を撮ってたでしょ?すぐ近くにいるって分かりますよ」


「良いじゃない。動画撮ったって」


 開き直っている。別に良いけどさ。


「たぶんネコは一生懸命、手を伸ばして食べたい物をアピールすると思いますよ。たぶん可愛いと思いませんか?」


 何も言わずUさんは立ち去った。早い足音と共に。


「良いの~?あれで」


「良いよ。ネコは人間慣れしないといけないし。Uさんはいつも通りだし」


「違うわよ~。メッシュの事よ」


 そっちか。気にしていなかった。


「何か問題を起こしているの?」


「いいえ。なじんでいるわ。だからよ。帰らないと言い出すんじゃないの?」


「それはないでしょ。それに上位の『守り人』って持ち場があるんでしょ?」


「あれはないわよ」


 あれって・・・。言い方がキツイね。


「担当なしの場合があるの?」


「樹の守護者だけはあるの。大規模に自然がやられてしまった場合の時だけ現地で活動する守護者達が。変わった力を持っていて色んな場所へ移動できるのよ~」


「そうなんだ。それで変わった力ってどんなの?」


「それは・・・」


「俺の力は守護者のいる場所へ移動できる力だ」


 メッシュが私の膝に戻ってきた。


「食べ終わったの?」


「良いや。少し休憩だ。また食べに行く」


 まだそんなに料理が残っているのか?それとも所長さん達が大量に買って来てくれたのかな。


「守護者のいる場所ならどこでも行けるの?」


「俺が探知できればな。ネコのような幼い個体は別だが」


「すごいね。他には何ができるの?」


「先生が出来ることなら俺にもできるぞ」


「へぇ~。それは・・・」


「聞き捨てなりませんね」


 すごいと言う前に先生が話に割って入ってきた。もしかして仲が悪いの?


「事実じゃないか」


「樹の力に関しては私の方が上です」


「誤差範囲じゃないか」


「ストップ。喧嘩を続けるなら違う場所でやって。私はやっとご飯を食べれるんだから」


 お昼ご飯は楽しみにしていたのに、このままではご飯がまずくなる。


「すみませんヤヌシ。メッシュ!ちょっとこっちに来なさい」


「面倒だな」


 先生達がどこかへ行った。ちゃんと話し合って来て欲しい。


「オモチ。先生達って仲悪いの?」


「性格が正反対だからね~。良いとは言えないわ」


 だろうね。仲良くしろとは言わないけどせめてこの場所では喧嘩はやめてほしい。

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