「ミカンちゃん」こと「飯田夏海」目線
私は今、優さんの車で帰宅している。優さんの顔色は優れない。先程の充君の事を考えているのだろう。
「優さん、ごめんなさい。私のせいで優さんまで充君に怒られてしまいました」
「そうね。これで少しは落ち着いて行動するようにしてね。でも私も連れて行ったから同罪よ。断ろうと思ったら断れたんだから。お互い可愛いものが関わると自重できなくなるからね~」
私が優さんの方を向くと優さんは前を向いて運転しながら苦笑いしている。
「さて、ミカンちゃんを送ったら私は事業所に向かわないと。今日の報告もあるしね」
「えっ、今からですか?明日で良いじゃないですか?」
「早いうちに言っておかないと記憶があやふやになりそうで嫌なのよ」
「だったら私もついていきます!良いですよね?」
私は頻繁に両親の職場に顔を出しているので問題ないはず。
「良いけど、所長と会うのよ?いいの?」
「・・・。言わないでください。分かってますから」
出来れば父には会いたくない。家にいても会わないようにしている。あの人が過保護すぎて小中高と友達から変なあだ名をつけられたし、今も友人関係であれこれ煩い。本当に面倒だ。あの人の娘で良かったと思ったことは少ない。だが、数少ない良かったと思えることは一つは充君と出会えたことだ。
私よりも10歳年上だが、私にとっては兄のような存在だ。充君が事故に遭う前は家族ぐるみの付き合いだった。私がいじめられた時も対処法を教えてくれたり本当に良くしてくれた。あれがなかったら私は不登校になっていただろう。
充君の家族が事故あってから今日まで私は父から充君に関わることを禁止された。 本当はお見舞いに行きたかったし、一人暮らしの手伝いもしたかった。
何故今更、充君の家に行っていいのか分らない。だが可愛い生き物もいると知って原付で行こうとしたら止められた。だから優さんにお願いした。その結果、怒られてしまったのだが・・・。
「なんでそこまでするの?さっきリビングで二人の会話が聞こえちゃったんだけど、和田さんにも言われてたでしょう。昔馴染みとはいえ、そこまでする必要はないと思うんだけど」
「充君は私の苦しい時に助けてくれたんです。それに私にとっては兄みたいな存在ですし。今度は私が恩返しがしたいんですよ!」
「本当にそれだけ?」
「どういうことですか?違いますよ!好きとかじゃないですからね!」
「ならいいんだけど・・・」
「別に成人してるんだから、そうだったとしても問題ないですよ~」
優さん、もしかして充君の事気になっているのかな。どっちなんだろう。普段の優さんは表情があまり豊かではないから分かりづらい。
「お願いだから冗談でも所長の前で言わないでね。家族喧嘩には巻き込まれたくないから」
「わかってますよ~。でも許してくれますかね?」
「夏海ちゃんは無理だと思うよ。私も無理かも・・・」
「えっ、優さんも?」
「えぇ。所長はそういうことにはかなり厳しいから。多分だけど、和田さんがあれだけ拒絶するのには理由があるはず」
先生がいるのに問題が起きる可能性があるのだろうか。それかまだ何か言っていないことがあるとか?私の考えが甘いのかな。それでも私も立ち会いたい。充君が心配だし、正直に言うと『守り人』が力を使うところも見てみたい。
そうこうしていると森を抜けて公道に合流した。もう少ししたら市街地に入って両親がいる事業所に到着する。
「それなら優さん!協力して父から許可をもらいましょう!二人で言えば何とかなりますよ!」
「ダメよ夏海ちゃん。私も夏海ちゃんが参加するのは反対だから」
まさか反対されるとは。私達は「可愛いものが大好きな同志」じゃないですか!
「なんでですか?いつも一緒にやってきたじゃないですか!」
「一緒に何をやってきたのよ、何を!大丈夫よ。ちゃんと何があったか教えてあげたるから。ついでに写真も撮ってきてあげるわ」
「そういう問題じゃないんですよ?私も行きたい!それに動画が良いです!」
「はぁ・・・。自分で所長に伝えなさい。許可がないとダメよ。嘘ついて和田さんの家に行くと下手したら二度と会ってくれないって分かってるでしょ?」
確かに。充君なら言いかねない。昔から約束に関しては厳しいもんなぁ。
「そもそも大学や休んでもいいの?」
「普段ちゃんと行っているから一日ぐらい大丈夫!」
真面目に通っていてよかった!それにしても・・・。
「話を変えましょう!タワシちゃん達、可愛かったですね~」
「本当にね!そういえば夏海ちゃん、私がタワシちゃんと触れ合っているところを動画で取っていたわよね?それ頂戴!」
「いいですよ!でもいいな~。私も触りたかった・・・」
「こればっかりは私の方がちょっとだけタワシちゃん達と付き合いが長いしね!」
「でもトウキちゃんは無理でしたね」
「トウキちゃんはガードが堅いからね。もっとコミュニケーション取っていかないと」
運転している優さんの顔が真剣になる。私もどうにかしたい。
「でも今日は最後に手を振ってもらえなかったな~。夏海ちゃんがいたからだと思う」
「私のせいにしないでくださいよ!確かに警戒していましたけど」
私にも抱き着いてくれないかなと本気で思った。ぬいぐるみ作ろうかな?
「でも充君が羨ましいですよね。私なら鼻血を出してるかも・・・」
「そんなに?でも私も抱っこして一緒に写真撮りまくると思うわ。絶対仲良くなってやるんだから」
分かる!何とかして充君の家に行く回数を増やそう。
「私、ぬいぐるみ作ろうかと思うんですけど・・・」
「いくらかかってもいいわ。私の分も作って!お金は出すから!」
急に優さんがこっちを向いてくる。
「ちょっと優さん!前向いてください!」
もうすぐ両親の会社に着く。頑張って父を説得しよう。
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