第41話

 先生の言いたかった事とは私に怪我をさせた子に謝罪の機会を与えてほしいという事だった。私も近いうちにそうしようと思っていたが、今日はまずい。ヘルパーさんとミカンちゃんがいる。特にヘルパーさんには聞かれたくない。

 

「先生、私もそれは考えてました。実は明後日くらいにこの間のお礼も兼ねたバターケーキを作る予定でした。その時に先生に掘り出してもらおうとしてたんですよ」


「そうだったんですね!ならそうしましょう!」


 先生の声が明るい。早く「あの子」を地中から出したいのだろう。


「ヤヌシさん、何の話ですか?」


 ヘルパーさんが話についていけず聞いてくる。まずい・・・。なんて誤魔化そうか。


「実はですね、ヘルパーさん・・・」


 私がどうしようか考えていると先生が事の顛末をすべて話してしまった。全然大丈夫じゃなかった!!先生にちゃんと伝えとくべきだった。できれば知られたくなかったのに。彼女は私が「あの子」にした事に対して幻滅するかもしれない。


「そういえば、あの怪我はどうなりましたか?見してください!」


「えっ?もう大丈夫ですよ」


「いいから!見してください!」


 ヘルパーさん。私の怪我の事、思いっきり忘れてたじゃないですか・・・。大丈夫なんだけどなぁ。


「はい、どうですか?」


 私は諦めて席から立ち服をめくる。その場がとても静かになった。何故か恥ずかしい。


「かなり色が引きましたね」


「トウキにも確認してもらってたので大丈夫ですよ!」


「トウキちゃん、ありがとう」


 ヘルパーさんからお礼を言われたせいだろう。トウキが私の足を強く抱きしめる。恥ずかしがっているな。


「じゃあ明後日にもう一度謝罪をするかどうか聞きましょうか」


「そうですね。そうしましょう」


「今やればいいんじゃないですか?」


 しばらく黙っていたミカンちゃんが急に発言する。私が一番望んでない内容で。


「いや明後日で良いよ。今日はお茶会が楽しかったし、そうだ先生、今度は違う甘いスイーツをお願いしましょうよ。例えば王道のプリンとかは・・・」


「ヤヌシ君、話をそらさないで。何か不都合でも?」


「・・・。万が一があるんだ。先生がいるとはいえ君たちに危険がないとは言い切れない」


「だったらヤヌシさんも危険じゃないですか!」


「私は当事者だし、タワシにも関係あるから良いんです!君達に何かあったら私は所長さんに顔向けできない。それに別に死ぬわけじゃないんだから。ちょっと会うだけですよ」


「だったら私も立ち会います!構いませんよね?先生!」


「私は構いませんよ。ヤヌシがいれば問題ないです」


 先生。ちょっと黙ってていただきたい。あと私の意図を読んでほしい。このまま言い合っても平行線な気がする。どうするか。


「まず、ミカンちゃんは絶対ダメ。これは絶対譲れない。ヘルパーさんは所長さんの許可を取ってください。許可が取れたら今度のヘルパーさんの訪問日にやりましょう」


 これが私の提案だ。所長さんに判断をゆだねよう。


「なんで私はダメなんですか?先生!私も良いですよね?」


 ミカンちゃんが先生に同意を求める。


「この件は私達、守護者がヤヌシに迷惑をかけた事故みたいなものです。ヤヌシの判断に従います。個人的にもヤヌシだけがいれば問題ないと思ってますから」


 さすが先生、分かっている。初めからそれぐらい空気読んでほしかった!でもこれは私の都合だな。先生は早く「あの子」に謝罪をさせて自由にしてやりたいのだろう。


「分かりました。所長に確認を取って私も参加します」


「私は少しでも危険があるならヘルパーさんにも参加してほしくありません。いつもお世話になっている大切な方に怪我してほしくない」


「・・・それでもです。前例がある以上ヤヌシさん一人で参加させるのは反対です」


「この話題はこれで終わりましょう。せっかくのお茶会なんですから。あとは所長さんにお任せします。私はコーヒーを入れなおしてきます。先生もココアのおかわり要りますか?」


「要ります!」


 タワシ達にも入れ直してあげよう。私はキッチンへ移動した。テーブルでヘルパーさんと先生が何か話し合っている。本当に大丈夫なのか確認しているのかもしれない。


「私も手伝います」


 ミカンちゃんがキッチンへやってきた。


「ありがとう。君とヘルパーさんの分も入れなおそう。ついでに戸棚に入っているお菓子も出そうか。電子レンジの上にあるんだけど、ミカンちゃん取れるかい?」


「大丈夫です。取れました!あの~。どうしても私はダメですか?」


「どうしてそんなに参加したいの?」


 そう、ミカンちゃんには参加する理由はないはずだ。ヘルパーさんの場合はちょっとワーカーホリック気味になってしまっている傾向がある。


「それは・・・。興味があるからじゃダメですか?」


「さすがにダメだね。今回はあきらめてほしい」


「ん~。じゃあ私も父から許可を取ったらどうですか?」


「無理無理!あの所長さんが出すわけないじゃない。それに仕事は?君にも仕事があるでしょ?いや大学生かな?」


 あの親馬鹿な所長さんが許可を出すわけがない。関係ないミカンちゃんが休みをってまで来ることではない。


「私は大学生ですよ。少しぐらい休んでも問題ないです!でも言ったね?言質は取ったよ!絶対許可を取ってくるから!」


 ミカンちゃんはお菓子が入った籠を持ってテーブルに移動したみたいだ。私は所長から許可を取ったら良いよとは言ってないんだけど。


 まさか「あの子」が可愛いかもしれないから見たいじゃないよね?ないと言い切れないのが怖い。それにしても最後の方のしゃべり方、昔みたいだった。あの喋り方が素なんだろうな。


「ヤヌシさん、私も運びます」


 ヘルパーさんがキッチンにやってきた。


「ヘルパーさん、さっきはすみませんでした。ちょっと感情的になってしまって」


「良いんです。私もですから。でも所長が許可したら私も参加しますからね」


「えぇ、もう諦めましたから。所長に丸投げです」


 ヘルパーさんが笑っている。


 そのあとはミカンちゃんが先生に質問攻めしたり、写真撮影会が行われた。そして二人は帰っていった。

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