第7話

 今日はヘルパーさんが来てくれる日。

 週で一番楽しみにしている日である。


 少しテンション高めで朝食の準備をしていた。

 するといつも通り「何か」が肩によじ登って来た。

 しかし、元気がない。

 昨日のことがそんなにショックだったのだろうか。

 そこまで食べ物で一喜一憂できる「何か」が少しうらやましくも感じる。


 昔から私はこういう時に相手に対して強く出れない。

 私の中で「何か」に対しての考え方や接し方が変わってきている気がする。


 でもどうせ今日までの付き合いだ。

 だったら最後ぐらいは良いものを食べさせてやろう。

 これは一種のツンデレというやつなのだろうか?


 深いため息が出る。私は何を考えているのだろうか。

 ここ最近「何か」には私の生活をかき乱されている。


 テーブルに冷凍マンゴーが入った容器を持っていくと「何か」が足踏みしてような音が聞こえる。

 容器をテーブルに置き、私はキッチンへヨーグルトとスプーンを取りに戻る。


 すぐに「何か」は食べ始めるだろう。そんなことを考えながらキッチンでヨーグルトとスプーンを準備する。

 テーブルから音は聞こえない。

「何か」は私がヨーグルトとスプーンを持って帰ってくるまでの間、食べるのを待っているようだ。

 何も教えていないが勝手に「待て」を覚えたのだろうか?


 私が食べ始めると「何か」も食べ始めた。

 テーブルの上はとても賑やかだ。そんなに好きなのか?もう少し静かに食べなさい。

 私が食べ終わって食器を洗っていると「何か」が肩まで登ってきた。

「何か」も食べ終わったみたいだ。


「何か」が登ってきた瞬間、私の頬に何かが当たる感じがした。

 とても冷たくてザラザラしている。それが上下に動いている。

 これは「何か」だな。

 でも冷凍マンゴーを食べたからこんなに冷たいのか?かなり体が冷たいと思う。


 その行為は1分近く続いた。そして落ち着いたのかいつものポジションに収まった。

「何か」からそういうアプローチをしてくるとは思わなかった。

 よっぽど嬉しかったんだろう。朝から騒がしいやつだ。

 でもこれで何の動物が全く分らなくなった。


 もう少ししたらヘルパーさんが来るからはっきりする。

 早く答え合わせをしてすっきりしたい。


 ヘルパーさんは午前10時に来る。

 そこから買い物で約1時間半、掃除で1時間半の3時間契約だ


 私は食器を洗い終わってからテーブルでお茶を飲む。

 そういえば今日のお昼に何の肉を使用するかまだ決めていなかった。


 豚バラ肉は確定。(生姜焼き用)仕込みもしているし。


 あとは鶏コマ肉を塩コショウでシンプルに食べるか。

 もしくは牛ステーキも良いし鶏もも肉も捨てがたい。


 少し前にやった肉巻きおにぎりも美味しかった。

 考え出すと止まらないな。本当に何の肉を買って来てもらおうか悩む。

 この時だけは独り言がとても増える。考えてるこの時間がとても楽しい。


 お茶を飲みながらお昼ご飯を思い描いていると、少しして玄関の方から車の音が聞こえる。

 少し早いがヘルパーさんが来てくれたみたいだ。

 それからすぐにチャイムが鳴った。


 私は玄関に移動してドアを開け、ヘルパーさんに挨拶をする。


「おはようございます。ヘルパーさん」


「おはようございます。━━━━さん、今日はどうですか?」


 ここまでが私とヘルパーさんの数年続く挨拶の流れだ。

 私が自分の名前を聞いて理解できるかの確認のためである。


「ダメ見たいです。今日も色々とよろしくお願いします」


「では、まずボイスレコーダーをいただけますか?それとお肉や魚関係で追加があれば言ってください」


 カチッと音がする。たぶんペンの音かな。


「はい。でもお肉を言う前に見てもらいたいものがあります。肩のこれ、分かりますか?」


「肩ですか?なにが・・・・」


 がさっと音がする。鞄でも置いたのかな?


「右肩に何かついてませんか?これ」


「そう・・・ですね。特に変わりはないですが、ちょっと待ってください」


 ガサガサと音がする。


「ちょっと写真を撮らしてもらっていいですか?私も最近、目が悪くなってきたんです。ちょっと写真を撮って拡大して確認してみます」


「えっ?なんだったら肩を直接触ってもらっていいですけど」


 自分で言って思ったけど体を触ってと言うのは気持ち悪いな。だが時すでに遅し。


「あぁ、最近カメラで写真を撮る習慣をつけているんですよ。どんどん視力が悪くなっちゃって。このままでは将来的に車が運転できないかもしれません」


「そうだったんですね。では写真で確認してみてください。」


「では、少し動かないでくださいね?はい、いいですよ~」


 カシャっと音する。撮るのが早いなしかし。そして沈黙。


「・・・・いや~特に何もないと思いますよ」


 いやいや、だったら今なぜか右肩で足踏みしている「何か」はなんだろう?

 というか何で肩の上で足踏みしてるの?まだご飯ではないよ。


「そうですか・・・変なことを聞いてしまってすみませんでした。買ってきてほしいお肉でしたよね。今日のお肉は牛ステーキと~」


 そこからいつも通りのやり取りを行って、ヘルパーさんは車に乗って買い物に出かけて行った。

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