第18話

 トウキが私のもとに訪れから3日たった。

 あれからこれといって変わったことはない。


 トウキは冷凍ベリーが大好きだった。

 やはりこの子達の好みは違うみたいだ。


 トウキは冷凍ベリーを食べた後、私の足にしがみついて足を叩きまくった。

 おかわりの催促だろうがそこまで甘やかさない。

 タワシはおかわりの催促はしてこなかった。そこは我慢してほしい。


 その日は右足が少し重かった。トウキからの意趣返しだろうか。


 この3日間、暇な時はトウキとの質問のやりとりを行っていた。

 ちょっとしたゲームみたいで楽しかった。


 結局タワシたちが何なのかはわからないが、ここ数年ずっと一人で暮らしていた私にとってはこのコミュニケーションがとても心地よかった。


 というかタワシだけだと何が言いたいのか分らないからとても助かっている。


 今まで問いかけた質問で一番気になっているのは、

「どうやって家の中に入ってきているのか」

 という質問である。


 トウキが初めて来た日の夜、私はしっかりと戸締りをして就寝した。

 次の日、朝ごはんを準備している時にタワシ達はキッチンへやってきた。

 私は家のどこか穴が開いているのではないかと心配になる。


 その日この疑問をトウキに質問した。

「ドア、窓、天井、床、抜け穴がある」この5つのどれかから入ってきているのかと。

 この問いにすべて「いいえ」と答えてきた。


 私は他に室内に入れそうな場所がないか考えたが、考えつかなかった。

 質問の仕方が悪かったのかもしれない。


 まさか壁を通り抜けているのかとも思った。だが本当にタワシ達が壁抜けをやっていたらとても怖い。

「君たちは幽霊なの?」とは聞けなかった。

 その質問で今の関係性を壊したくはない。


 今度ヘルパーさんにもう一度確認すべきだろうか?

 だが肩の事をもう一度聞いて頭がおかしくなったとヘルパーさんに思われるのは嫌だ。


 ましてや意思の疎通ができるんだと言ったら誰か信じてくれるだろうか?

 誰かに「これは夢でした」と言われたら私はやっぱりと思うだろう。


 あと分かったことはタワシとトウキは性格がかなり違う。

 これは人間と同じでちょっと安心した。

 タワシは好奇心旺盛。トウキはたぶん面倒見がいいタイプだろう。

 おそらくだけど、トウキはタワシが気になって我が家に来た可能性が高い。


 前に質問でトウキはタワシのことを仲間と言っていたが、あくまで同じ森で生活しているということなんだろう。

 どう考えても同じ生き物だとは思えない。まぁタワシがこれから大きくなる可能性はあると思うが。


 それと私が花壇と家庭菜園に水やりをするときに彼らは私の体から離れるようになった。

 野菜や花に興味があるのだろうか。野菜は収穫するまでは手を付けないでほしい。

 トウキに聞いたら「食べてない」と言っていたので信用しよう。


 今まで紹介してなかったが花壇には母が生前に良く育てていた花を育てている。

 私が退院した時に「これから毎日、何をやればいいだろうか」と所長さんに相談した。すると荒れていた花壇をきれいに掃除してくれた。母のように花を育てることを勧められた。


 花壇の横のスペースが空いていたので、ついでに家庭菜園も始めたわけである。

 所長さん曰く「めざせ自給自足!」らしい。

 ヘルパーさんが来るたびに育ち具合を見てもらっているが、水やりは私の仕事だ。


 花壇横にある水道の蛇口をひねるだけで水やりができるように所長さんが改造してくれたのでとても助かっている。


 そろそろ紫陽花が咲き頃だとヘルパーさんが言っていたのでとても楽しみ。

 ただ、タワシが花壇で遊んで荒らしてないか心配だ。紫陽花を傷つけていたらご飯抜きだな。


 あとタワシが積極的に私を触るようになってきた。トウキが常に私の足にくっついているからかもしれない。

 タワシ的なコミュニケーション方法なんだろう。


 でもタワシは名前通り体がかなりチクチクしているので急に顔に当たるとびっくりする。そこからタワシが動くので少し痛い。

 どんな感じと聞かれたら子供の頃に父親によくやられた髭ジョリジョリ攻撃に近い。


 にしても私もなんだかんだこの子達を受け入れている。

 不思議生物との共存生活。自分がここまで対応力があると思っていなかったな。


 事故から止まっていた時が動き出したような気さえする。

 出会った時はタワシに罰が当たるように願っていたのに。面白いものだ。


 明日はヘルパーさんに買って来てもらう物のリストをボイスレコーダーに録音しなければ。

 この間作ったバターケーキをまた作ってあげるべきだろうか。

 トウキはまだ食べたことないけど食べてくれるかな。


 それになんとか作れるお菓子の種類を増やしたいな。

 ホットサンドメーカーで作れて簡単なレシピ。

 出来れば混ぜて焼くだけの奴が良い。


 ヘルパーさんにお願いして分量を量っておいてもらえば私も楽ができる。

 いまだにタワシ達は既製品のお菓子に反応をしない。もしかしたら我慢しているだけかもしれないが。

 何とか言葉でコミュニケーションが取れないだろうか。


 お菓子の事を考えると想像が膨らむ。楽しい。

 明後日、ヘルパーさんに相談してみよう。

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