トウキ目線②

 人間がご飯を食べるか聞いてきた。

 まさか直接あたしに聞いてくるとは思わなかったわ。


 あたしは人間の足を軽く2回叩いた。


 人間は下を向いてあたしも聞いてきたが、目線はあたしに向いていない。

 もしかして、あたしが見えているように振舞っているんだろうか?


 人間があたしに話している言葉を理解できているか聞いてくる。


 あたしはまた人間の足を軽く2回叩く。


 なぜだろう。人間がため息をついている。


 それからどうやって意思の疎通をするかやり取りを決めた。

 人間が嬉しそうだ。あたしも少し面白い。


 ミーちゃんが話に入れないので騒いでいるけれど今は無視よ。

 あたしはいくつかの質問に答えた。

 ちゃんと意思疎通ができてる。すごいわね。


 とりあえず、ご飯を食べに来たことは伝えたわ。


 人間が「タワシと一緒のご飯でいいの?」と聞いてきた。

 タワシって何かしら?


 どう答えていいかわからない。

 ミーちゃんのことをタワシと呼んでいるらしい。


 タワシって響きは可愛くない・・・

 ミーちゃんの方がいいわ!でもそこまで伝えられない。悲しい。

 仕方ない。分かったことにする。


 でもあたしにもご飯をくれるらしい。

 確かにこの人間はやさしい。しかし先生は人間には近づくなと言っていた。

 その先生の教えを無視してあたしは今、人間の足に抱き着いている。


 はじめはミーちゃんが心配でついてきたが、あたし自身がこの人間に興味を抱き始めている。人間があたし達のご飯を持ってきてくれた。


 甘い匂いがする。確かに美味しそうだわ。


 あたし達は人間から離れる。人間は先程まで立っていた白い箱の方へ移動していった。


 あたしはご飯を食べ始めようとした。するとミーちゃんことタワシが声をかけてきた。


「お姉ちゃん。このご飯おいしそうでしょ?」


「確かに美味しそうな匂いがするわね。それよりもミーちゃん。あなた人間にタワシって名前をつけれてるわよ。知ってた?」


「本当に?知らなかった。あっ、お姉ちゃん。人間がここに帰ってくるまでご飯は食べちゃだめだよ。一緒に食べよう」


「一緒に食べるの?分かったわ」


 タワシはご飯を一緒に食べてこの人間と仲良くなりたいのかもしれない。あたしと違ってまだ人間の言葉は理解できていないから。

 タワシの言う通りにあたしも人間と一緒にご飯を食べよう。


 人間が食べ始めたのであたし達も食べ始める。

 なにこれ!美味しい。とても冷たくて甘いわ!

 森では食べたことない味ね。これならタワシが毎日通うのもわかる気がする。


 あたし達の生活には刺激が少ない。

 好奇心旺盛なタワシにとってはここで起こる出来事が楽しいのだろう。


 あたしはご飯を食べ終わりまた人間の足を抱きしめた。

 人間は何か作業をしている。


 作業が終わりあたし達はご飯を食べた場所に戻ってきた。

 人間があたしに質問がしたいと言ってきた。

 人間からしてみれば現状は疑問だらけだろう。その気持ちはとても分かる。

 そしてタワシが迷惑をかけて本当に申しない。


 タワシがこの場所を見つけなかったらこんなことにはなってなかっただろうから。

 だがその前にあたしを触りたいと言い出した。


 どうしよう。触れれるのは嫌だ。

 でもこの人間はあたしに嫌なことをするために触るのではなく、ただ純粋にあたしが何物なのか確認したいのだろう。


 あたしは「良いよ」と人間の足を軽く2回叩いた。


 人間はほとんど目が見えないことを申告してきた。やっぱり見えなかったんだ。

 自分の足に手を当ててゆっくりあたしの方にさげてくる。

 人間も本当はあたしに触るのが怖いのかもしれない。


 あたしは自分から人間の手に触った。

 人間はあたしの手をつかみ、握ってきた。


 いい触り心地だとほめられた。ちょっとうれしい。

 そのあとあたしのことをトウキと呼んでいいか聞いてきた。


 あぁ、この人間は名前を付けるセンスがないわ。直接文句を言いたい。

 でも何も言えないのが悲しい。

 この名前を拒否してもまともな名前が出てくるとは限らない。


「良いよ」と人間の足を軽く2回叩いた。

 人間は自分のことを「ヤヌシ」と呼んでほしいと言ってきたわ。


 もう名前に関しては何も言わない・・・。

 これからはヤヌシと呼ぼう


 そのあとヤヌシからの質問に何個か答えた。

 ヤヌシはあたしからの答えを聞いては何か考えていたわ。思うところがあるのかしら。

 質問に全部答えた後、ヤヌシはなぜか疲れていたわ。なんでだろう。


 ヤヌシは外で作業をし始めた。

 そして気づいた。あたしが抱き着いている足が重そうだ。引きずっている。

 もっと早く気づけばよかった。ごめんね。

 あたしは自分の体重を軽くした。


 ヤヌシがあたしに体重を軽くしたのか聞いてきた。

 なんでそんなことを聞くのかしら?


 何故かあたしを褒めてくれた。うれしくてちょっと強めに足を抱きしめた。

 ご飯を食べた後、あたしはタワシは一緒に森に帰った。


 タワシにはヤヌシのことを伝えた。

 話に入れないことがさみしいみたいだ。何とかしてあげたいけど、どうしよう。

 それに先生にもちゃんとこのことを話しておかなくては。

 もう知っているとは思うけど・・・


 タワシを住処の樹の洞に送った後、あたしは先生に会いに移動した。

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