第166話
Uさんと春さんの二人が買い物に行っている間に私は縁側に移動して折り畳みのイスやテーブルを広げて準備を始める。焚火台で調理するのも久しぶりな気がする。せっかく新しい『守り人』達が来てくれたんだ。今日は歓迎会だな。
「ねぇトウキ!それは何?」
「ノート、これは私の椅子よ。こんな感じに使うの。これに座ってご飯を食べるのよ!」
「良いな~。あたしも欲しい!」
「僕も」
ノートとスポンジがトウキの椅子を羨ましがっている。
「あたしので良いなら貸してあげるわよ!ヤヌシ、良いでしょ?」
「別に私に確認する必要はないよ。トウキが良いのなら大丈夫だ。近い内にノート達の椅子も買って来てもらおう。フウセン専用のコップもね」
「ありがとう!ヤヌシ」
「ありがと」
「本当ですか?ありがとうございます」
フウセンは縁側で見ているだけになっているので極力仲間外れにしないように気をつけなければ。それにしてもトウキ、自慢することなく自発的に椅子を貸してあげるのは偉いと思うよ。
「そうだ!先生、おはようございます。一緒にお昼を食べませんか?」
「おはようございますヤヌシ。いただきます!」
勢いよく左肩に先生が乗ってきた。なぜか首元にしがみついているネコの力が強くなる。まだ怒られると思っているのかな?
「ヤヌシ。今日は何を作るのですか?」
「今日はですね。いつものジャガイモとかに加えて新しい料理を作りますよ。ノート達の歓迎会も兼ねてちょっとだけ豪勢にします」
「そうなんですね!何か手伝えることがあれば言ってくださいね!」
私が先生と話している横でタワシ達は枯葉を集めてくれているらしい。ノートとスポンジも一緒みたいだ。楽しそうで何より。ただ少し気になっているのはネコが私から離れないことだ。
ネコと出会ってからほとんど私の首元にしがみついている。寝ている時も私のすぐ横でタワシと仲良く寝ているみたいだ。先生がネコに対して何も言わないということは『守り人』として問題ないのかな?
「ヘルパーさん達が帰ってきたみたいね。あたしは迎えに行ってくるわ~」
「ちゃぽん」と水が落ちるような音した。オモチの分体がヘルパーさん達を迎えに行ったのだろう。オモチ、いつもありがとうね。
「トウキ。ヘルパーさん達が帰ってきたらジャガイモをアルミで包むけど一緒にやる?」
「やる!!」
いつものメンバーでジャガイモの手伝いをやるのはトウキぐらいだ。新規メンバーにも声をかけておこう。
「ノート達もジャガイモの作業ができるなら一緒にやって良いからね。私にはまだ君達の向き不向きが良く分かっていないからその都度教えてほしいよ」
「分かりました!」
「分かった」
「私も可能ならやってみます!!」
私達は玄関の方に移動してヘルパーさん達の帰りを待った。するとバタンを音がして足音が近づいてくる。ガサガサとビニール袋の音も聞こえるな。
「ただいま~。ヤヌシちゃん達、お出迎えしてくれたの?ありがとう~。今は抱きしめられないから後で抱きしめるわね」
「春さん、お帰りなさい。抱き着くのは一日一回で十分ですから。私も荷物を持ちますよ」
『守り人』達も各々が「お帰り~」と春さん達に言っている。ヘルパーさんの気配がないのだが大丈夫か?
「━ちゃん、しっかりしなしさい!仕事中よ!」
「・・・。す、すみません。衝撃が強すぎて軽く意識が飛んでしまいました」
「あの~。春さん、荷物を運びますから」
「ごめんねヤヌシちゃん。後でちゃんと言っておくから」
個人的には別に良いんだけど仕事中の出来事は春さんの判断に任せよう。私達は荷物をもってキッチンへと向かった。
「私が荷物を片づけますので━━チーフはヤヌシさんのヘルプをお願いして良いですか?」
「良いわよ。ヤヌシちゃん、何か手伝う事はある?」
「ではまずは焚火台に火をつけてもらえますか?あとご飯を五合炊いてもらえると助かります。そのあとにジャガイモをこの子達を一緒に包んでもらいたいです。ノート達も一緒にでお願いします」
「了解~。ヤヌシちゃんはどうするの?」
「私は昼食の準備をします。買い物でお願いしていた鶏肉をください」
今日はハヤシライスもどきがメインでピザなど『守り人』達が好きな物を色々買って来てもらった。今まで『守り人』達が好きだった食べ物を準備しただけだが、いつものヘルパーさんの日の昼食の中では豪華だと思う。
「はい鶏肉ね。じゃあ、みんな!まずは火をつけに行くわよ~」
私の体から『守り人』達が離れていった。ノート達もタワシ達から話を聞いていたから興味津々なんだろう。ネコと先生とオモチだけが私の体に残った。オモチと先生はともかくネコは行かなくていいの?
「ネコ、君は良いの?オモチ、悪いけどちょっと聞いてみてくれない?」
ネコはまだ私の言葉が分からない。誰かに頼んで通訳が必要だ。タワシがやっと会話できるようになって通訳卒業だと思ったのだがこればっかりはしょうがない。
「ここにいるって言ってるわ~」
春さんが怖くて近づかないだけなのか、私から離れたくないだけなのか分からない。だがこの家の中ぐらいは自由に動き回ってほしいものだ。
キッチンでネコの事を少し考えていたら後ろから圧を感じる。これはヘルパーさんだな。ヘルパーさんの邪魔にならないように早く縁側に避難するとしよう。
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