第203話

 砂岩達の話し合いも終わりみんなで昼食の準備をしている。私はメッシュにニンジンを食べさせようとキッチンへ来ていた。


「どうメッシュ?美味しい?」


 メッシュが黙ってニンジンを食べている。反応が全くないから美味しいのかどうか分からない。


「なぁ」


「何?」


「これってまだあるのか?」


「え?もう少しならあるけど・・・」


「ならくれ」


「ください」


「ん?」


「『くれ』じゃなくて『ください』または『ちょうだい』」


「別に言い方なんてどうでもいいだろ!」


「良くないよ。君は上位の『守り人』なんだ。小さい子達の手本になるようにしないと。みんな見ているんだよ」


 子供が言葉使いをまねし出すと矯正するのに時間がかかるからね。


「そんなこと・・・」


「本当に?心当たりがあるんじゃないの?」


 メッシュが黙ってしまった。心当たりがあるのか。


「分かった。おかわりをください」


「はいはい。ちょっと待ってよ・・・。はい、どうぞ。それで美味しいの?」


「悪くない」


 素直じゃないな~。


「マヨネーズはいる?」


「この白いのか?」


「そうそう」


「つけてない」


「え?つけなよ。それも美味しいからさ」


「本当か?分かった。・・・。ない方が良い」


 マヨネーズがいらないだと?我々人間がこよなく愛しているマヨネーズが?メッシュは私の中で普通のウサギに分類された。


「メッシュ。私はトウキ達とジャガイモの準備をするから食べてていいよ」


「ん」


 大人しくなったな。初めからこうあってほしかった。


「トウキ、お待たせ。もう終わっちゃった?」


「もう少し!ヤヌシはアルミホイルを切ってくれる?」


「了解」


 私はトウキに言われるわがままにアルミホイルを準備していった。椅子に座ってアルミホイルを切っていると膝の上に何か乗ってきた。


「ヤヌシ、おかわり」


「メッシュ。これからお昼ご飯なんだ。これ以上はやめておこう」


「そうか。分かった」


 腑に落ちてないみたいだな。やれやれ、しょうがない。


「お昼ご飯を食べても食べれるのなら出してあげるよ。それでいいでしょ?」


「本当か!?それでいい!」


 メッシュが発言すると同時に私は膝に軽く衝撃を受けた。もしかして私の膝を蹴ってる?


「メッシュ。何をしているの?」


「気にするな」


 いや気になるって。


「ヤヌシ!アルミは?」


「ちょっと待ってよ~」


 ジャガイモを包み終わるとUさんがこちらへやってきた。


「ヤヌシ君。こっちの様子を見に来たんだけど・・・。あれ?メッシュさんは?」


「ここだ」


「ヤヌシ君の方から声は聞こえるけど・・・」


「私の膝の上だよ」


「あら、そんな所にいたのね」


 シャッター音が聞こえるが気にしない。


「ヤヌシ。あれは良いのか?」


「良いんだよ。それにメッシュ。あの人がいないとさっき食べたニンジンも食べれないよ」


「そうなのか?」


 間違いは言っていない。それに私はもう注意する気力が失せているんだ。


「そうよ!メッシュさん。仲良くしましょうね」


「お、おう」


 メッシュが押されている。ここにミカンちゃんが加わったらどうなるんだろう。


「準備はできたよ。Uさんも運ぶのを手伝ってもらえる?」


「そのつもりよ。みんな焼きに行くわよ~」


 トウキ達がUさんと一緒に縁側の方へ行ってしまった。言い方が春さんみたいだな。もしかしてマネをしているのかも。


「なんであんなに楽しそうなんだろうな」


「え?」


「俺が知っている守護者達はみんな疲れている。俺もだ。生まれて楽しいと思ったことはない」


『守り人』にはこの星を守ること以外でやることがないと聞いた。娯楽がないのはつらいだろうね。


「あの子達は食べる楽しみを知った。他にもたくさんね。メッシュも今から楽しみを見つければ良いんだよ」


「でもそれで本当に良いんだろうか?」


「君達がやっていることは私達人間のほとんどが知らないことだ。でも私は君達が人知れずに頑張ってきたを知っている。これだけ頑張っているんだ。少し遊んでもこの星も怒ったりはしないよ」


 でないと砂岩達はこの星に説教されているよ。


「さぁ。私達も移動しよう。みんなが待っている」


 メッシュがズボンの間に入ったのを確認して縁側に移動した。するともうすでに準備万端みたいで私達を待っていたらしい。


「遅いぞヤヌシ!始められないじゃないか!」


「ごめんよ砂岩。すぐに始めよう」


「すみません。砂岩様」


 前と同じように私のあいさつでバーベキューが始まった。ブラシとメッシュ以外の『守り人』は私の体から離れて自由に動いている。


「これが温泉卵?美味しそうには見えないけど・・・」


「砂岩。これ単体はあじけないけど焼き肉丼との相性がとても良いんだ!騙されたと思って食べてみてよ」


「そうなの?では・・・。なるほど。表現しづらいが焼き肉丼が一段階美味しくなったな。さすが所長さん!」


「これは日本人なら有名だからね」


 そういえば私も砂岩に美味しい食べ方を教えてあげる約束をしていた。


「砂岩。私からも教えてあげるよ」


「約束だったよね。どんな食べ方?」


「本当はキムチとかあったら良かったのだけど・・・。私はこれだ」


「これってチーズ?ピザの上に乗っているやつでしょ?」


「そうだよ。所長さん。これを鉄板で軽く温めてから焼き肉丼にかけてあげてください」


 またチーズかと言われかもしれないが我が家にはあまり食材がないのだよ。


「ヤヌシ!あたしも砂岩様と同じものを食べてみたい!」


 トウキが私の足に抱き着きながら言った。チーズの在庫ってまだあったかな?

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