第207話

 所長さんにネコを預けて私はご飯を食べていた。私用のテーブルにはジャガイモやピザと言ったいつものご飯や焼いたお肉が置いてあった。かなり冷めていたけど美味しい。


 私としてはいつも食べないような物を食べたいのだけど・・・。『守り人』達は一度気に入ってしまうと暫くは同じものを食べようとする。この間のお寿司のように口に合わないものを食べるよりかは良いのかもしれないけど、もっと色んな食べ物を食べてほしい。


「ヤヌシ。お好み焼きを食べたい」


「あれ、テーブルに出ていないの?分かった。なら私も一緒に食べようかな」


 どこかに行ってしまった先生達は放っておいて私達はキッチンへ移動した。冷凍庫からお好み焼きを取り出し電子レンジで温める。


「どうせだったらお好み焼きは鉄板で焼けばよかったな~」


「これって焼くものなの?」


 ブラシが珍しく自分から話に参加してきた。


「そうだよ。お好み『焼き』だからね。今温めている物も美味しいけど自分で作った方が美味しいと思うよ」


「次の時に食べたい」


「良いけど・・・。同じものばっかりで飽きない?」


「美味しいから問題ない」


「私としてはもっと色々な物を食べてほしいけどな」


 ブラシは何も言い返してこなかった。私は温め終わったお好み焼きを持って縁側へ戻る。自分の椅子に座ると所長さんが話しかけてきた。


「ヤヌシ君。君は丼を食べるかい?」


「ご飯に余裕があるのならいただきます」


「それと言いづらいのだけど・・・。ネコがお好み焼きを食べたいらしい」


 ネコが手で所長さんに合図しているのだろう。


「所長さん。ちょっとだけネコにあげてください。ネコ、この後ケーキもあるんだ。良く考えて食べないと後悔するよ」


「少しだけ食べるって言ってるわ~」


 それでも食べますか。後で後悔しても知らないよ。私は自分のお好み焼きのお皿を所長さんに渡した。所長さんは上手にネコに食べさせているみたいだ。


「Uさんは『守り人』達のご飯を作っているんですか?」


「そうだよ~。僕がネコの相手をしているから代わってもらったんだ。ネコをUさんに預けようと思ったんだけど嫌がってね」


 Uさん。落ち込んでいなければ良いけど。


「なんだ。それ美味しいのか?」


 私の膝の上にメッシュが戻ってきた。


「美味しいよ。食べてみる?」


「少し欲しい」


 ブラシのおかげで素直になったものだ。私は所長さんにお願いしてメッシュのお皿に乗せてもらった。


「これも良いな。でも今の所、最初の食べ物が一番良い」


 お好み焼きが何の味付けもしていないニンジンに負けるとは。本当にただのウサギでは?


「あとで出してあげるから。もう少ししか残っていないけど。いや家庭菜園にあったな」


「ヤヌシ君。何の話?」


「メッシュはニンジンが好きなんですよ」


「そうなんだ。確か家庭菜園にあったと思うけど・・・。あとで様子を見てあげるよ」


「ありがとうございます」


「所長さん。よろしく頼む」


「良いよ~」


 所長さんはネコを連れてUさんの方へ戻っていった。ネコに焼き肉丼を食べさせるらしい。ネコは絶対にケーキ食べれないな。今回の件で学んでもらおう。私はお好み焼きを食べる。


「なぁヤヌシ。俺がここに来たいと言ったら反対するのか?」


「ん?別に反対しないよ。ここにいない私の友人四人にも手を出さないと約束してくれるなら」


「それは大丈夫だ。お前の友人なら俺達に理解がある人間という事だろう」


「ん~。ヘルパーさんみたいなタイプがもう一人いるけど大丈夫?」


「え?そうなのか・・・。大丈夫だ」


 少し葛藤したね。気持ちは分かるけど。


「なら気にしなくていい。先生だって良く来ているんだ。暇ならおいでよ」


「本当か!ありがとう」


「良いんですか?ヤヌシ」


 先生が私の左肩に乗ってきた。良いんですかってあなたと砂岩が連れてきたんでしょ?


「大丈夫ですよ。それよりも良いんですか?あっちは盛り上がっていますよ?」


 バーベキューコンロの方が賑やかだ。ご飯が出来たんだろう。


「そうですね。私も参加してきます」


 先生は左肩から居なくなった。


「君は行かないの?」


 私は今だに膝の上にいるメッシュに話しかける。


「俺か?さっき貰ったからな。小さい守護者達に譲る」


 思ったよりも大人な意見だ。それとも口に合わなかっただけか。


「なぁ本当に来ても良いのか?」


「しつこいね。良いって」


「・・・」


 先生に何か言われたんだろうか。特に気にする必要はないのに。ご飯を食べ終わって手が空いた。所長さんからネコをもらっても良いけどご飯を食べている最中だろうから邪魔はしたくない。暇だから膝の上にいるメッシュでも撫でておこうかな。

 私は黙ってメッシュを触った。


「なんで俺を触る」


「え?暇だから」


「やめろ」


「良いじゃない。それに今のうちに慣れておかないと」


「慣れる必要があるのか?」


「いずれ分かるよ」


 メッシュは文句は言うものの逃げなかった。近い将来もっとすごい人間がやって来るんだ。今のうちに慣れておいた方が良いよ。

 私は所長さんがネコを渡してくるまでメッシュを撫で続けた。

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