第58話

 バーベキューが終わると所長さん達は帰っていった。上位守護者達でこれから集まため『守り人』の砂岩と先生も帰った。残った私達はリビングで話し合っている。私達というかタワシとマリモだ。


 私がタワシとマリモに話し合うように言った。わだかまりはない方が良い。虐めていたマリモがどういう風にタワシに接するか分からないが、うやむやにするのは良くない。あまりにも話が進まない場合は私が介入しよう。


 静かになったリビング。さっきまでの賑やかさが嘘のようだ。テーブル上でどうなっているのか私には分からない。だがタワシ達に何か動きがあったらトウキに足を叩くようにお願いしている。


「ヤヌシ、これでは話が進まない」


 マリモが私に声をかけてきた。


「どうしたの?」


「何を言ってもタワシがだんまりだ」


「なるほどね。どうしようか・・・。そうだ、トウキ。タワシに通訳してくれる?」


 私の足を軽く二回叩かれる。


「タワシ、今なら何を言っても大丈夫だ。私が君を守ると約束するよ。だから本音でマリモと話してくれないか?」


 私が手をテーブルの上で伸ばすとタワシが自分から手の上に乗ってきた。分かったという事だろうか。


「よし、もう一度始めてみよう」


「分かった」


 またリビングが静かになる。私はコーヒーを飲みながら事の顛末を見守る。出来ればタワシとマリモには仲良くなってほしい。


「ヤヌシ、済んだぞ」


「早かったね。ちゃんと会話できたの?」


「あぁ、問題ない。と言いたいところだが私が全面的に悪かったと謝った」


「タワシは何て言っていたの?」


「それは・・・」


「タワシは何で僕を虐めたの?って言ってたのよ!」


 頭の中に大音量の甲高い声が響く。この声はもしかしてトウキか?


「もしかしてこの声はトウキ?」


「え?もしかして成功しているの?やった~!ヤヌシ、私よトウキ!」


 映画館にいるような大音量だ。トウキの声が高いのもあって頭が痛い。


「トウキ、音量を下げてくれ。頭が痛いよ!」


「ごめんね!ちょっとまってよ?これくらいならどう?」


「もう少し!」


「ならこれくらいは?かなり抑えたけど聞こえてる?」


 全然聞こえるよ。むしろまだ下げてもいいくらいだ。


「良いよ。ありがとう!やっと話せたね、トウキ」


「私も話したかった!名前の時はごめんね。あたし、ヤヌシの事情も知らなくて」


「良いよ。慣れてるからね。それでタワシは虐めた理由を聞いてきたの?」


「そうよ!それでマリモが「何となく」って言ったら黙っちゃったの」


 虐める理由なんてそんなもんだよね。まだ『守り人』達は幼いから完全に子供の喧嘩だな。


「それでマリモが本当にすまなかったって謝ったのよ。そうしたらタワシがあとはヤヌシにもう一度謝ってほしいって言ったの」


 タワシはこの間の件をまだ許してなかったんだな。でも私のために怒ってくれるなんて嬉しいね。


「ヤヌシ、本当にすまなかった。もう二度とやらないから許してほしい」


 お昼に謝ってもらっているから個人的にはもう謝罪はいいのだがタワシの手前受け取っておこう。


「わかった。マリモの謝罪はちゃんと受け取ったよ」


 するとテーブルの上が賑やかになる。


「何が起きているの?」


「あたしがタワシに謝罪が済んだって教えたのよ。するとタワシがマリモに体当たりして『これでもう大丈夫!』って言ったの。マリモは何で謝ったのに体当たりされたのか分からなくて追っかけっこしているみたい」


 何とかなったかな?喧嘩しない程度に遊んでほしい。そういえば・・・。


「トウキはまだ体の大きさは変えられないんだよね?」


「うん。難しいの」


 トウキの声のトーンが一気に下がる。


「いいや。出来ない事を責めているわけじゃないんだよ?トウキも小さくなってテーブルの上に乗りたいのかなと思ってさ」


「ん~、どうだろう。そこまで興味ないかも」


「そうなの?私の中でタワシ達と一緒に遊びたいのかなと思ってね」


「それはないわよ。あたしはそんなに子供じゃないわ」


 思ったよりもお転婆っぽいな。先生から聞いていた通りだ。


「それに私はあなたの足にしがみついてるのが好きだからこの大きさが良いの!」


「そっか・・。そういってもらえると嬉しいね。ありがとう」


「べ、別にそんなつもりで言ったわけじゃないんだからね!事実を言っただけよ!」


 まさか、これがツンデレというやつなんだろうか。ドラマとかで聞いたことはあったが実際に存在するとは。


「それでもだよ。君達が来てくれたおかげで私の生活は大きく変わったんだ。もちろん、良い方向にね!」


「マリモが増えてもっと騒がしくなるのね」


「喧嘩してたら仲裁してね。お姉さんとしてお願いするよ」


「任せてよ!あたしはお姉さんだからね!」


 ちょろいな・・・。大丈夫か?タワシは自由奔放。トウキはちょろい。『守り人』が人と関わると騙される未来しか見えないな。


「そうだ、トウキ。これはタワシに伝えてほしいのだけど。もし仮にこの家の付近で私以外の人間を見かけた時は教えてほしい。もちろん君やマリモもだ。そして関わらない事。これを徹底させてほしい」


「わかったわ。でも大地様が言ってた守護対象になってしまえば問題ないでしょ?」


「そういうわけにもいかないんだよ。一番面倒なのは国に君達の存在がばれてここが隔離されるパターンだ。そうなるとUさんや所長さんが来れなくなって私が餓死しちゃうよ。君達も毎日食べてる冷凍フルーツが食べれなくなるのは嫌でしょ?」


「それは嫌!」


 トウキの悲鳴にも近い声が私の頭に響く。テーブルの上も静かになったな。もしかして聞こえてたのかな?


「だから可能な限りで良いんだ。見かけたら教えてね」


「分かったわ!タワシ、マリモ!あとで話し合うわよ」


 姉御って言いたくなるなトウキは。


「よろしくね。じゃあ晩御飯の冷凍フルーツを準備しようか。私も今日は冷凍フルーツだけにしよう」


「冷凍フルーツって何だ?」


 マリモが問いかけてくる。そういえば君は初めてだったよね。


「冷たくて甘い果物さ。出してみるから口にあったら食べてみると良い」


「そうか、分かった!」


「美味しいんだから!ね、タワシ!」


 いつの間にか私の肩の上にいたタワシが足踏みしている。本当に賑やかになったものだ。私は『守り人』達を体にくっつけてキッチンへ移動した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る