第1回 ヤヌシを守る会(仮)

 マリモを地中から掘り起こした日の深夜。 見回りが終わったらヤヌシの庭に集合とあたしはみんなに伝えていた。そして今、あたし達はヤヌシが育てている花壇の前で顔を突き合わせている。


「みんな、担当の育樹の見回りは終わった?」


「終わった~!」


「あぁ。終わった」


「じゃあ、始めるわよ!第一回・・・。名前何にしようかしら」


「何でもいいじゃん」


「そういうわけにはいかないの!こういうのは形から入るものなんだから!」


「お前、先生達の集まりに憧れすぎだろう」


「いいじゃない!目標は高くもたないとね!」


「その割にはあんまり訓練の調子が・・・」


「それ以上言うと明日ヤヌシに言ってご飯なしにしてもらうわ」


「・・・。はい、すみません」


「タワシ、静かだけど意見は?」


「ん~?僕は何でもいいよ?」


「あなたはもう少し興味を持ちなさい!ヤヌシのためなんだからね」


「そうなの?分かった!」


 あたしがまとめないと絶対に話は進まない。


「まずはこの集会名をサクッと決めましょう。はい、マリモ!」


「え、俺?え~っと・・・。『ヤヌシの仲間達』とかは?」


「それは集会名というよりかは、私達をまとめただけじゃない。次、タワシ!」


「ん~。『冷凍フルーツの集まり」とかは?」


「もっとまじめに考えてよ!」


「ならお前はどうなんだよ?良い集会名を考えてるのか?」


「当たり前じゃない!『守護対象の守り人』よ!」


 あたしが少し前から考えていた名前!良い名前でしょ?


「・・・。なんか俺が考えたやつとあんまり変わらなくないか?それに『守り人』って人間達が俺達を呼ぶときの呼び名だよな?」


「そうよ!ヤヌシは人間だから「守り人」を入れたの!でもあなたの考えたものとは全然違うわ!」


 本当に何言ってんの?全然違うじゃない、一緒にしないでよね!


「ね~。もっと簡単にしようよ。「ヤヌシを守る会」とかは?」


「簡単すぎない?もうちょっと工夫を・・・」


「いいんじゃねぇの?俺は賛成~」


 マリモが賛成したらあたしの勝ち目がなくなっちゃう!どうしよう・・・。でもこのままだと話が進まない。


「まぁ、今回はそれでいいわ!次回はちゃんと決めるからね!では第一回ヤヌシを守る会を始めます」


「は~い!」


「おう」


「それでは今日の話は『この住処の付近で人間を見た時の対処法』についてです」


「ヤヌシとその知り合い以外のだよな?」


「えぇ。先生によるとこの近辺の住人がここに来ることはまずないそうよ。どうやったかは分からないけど・・・。ヤヌシに危害を加えそうな人間達だったから、あたしは安心したけどね」


「そうなんだ!さすが先生!」


「流石だな!ならもういいんじゃないのか?こんな山奥に人は来ないってヤヌシが言ってたじゃないか」


「ヤヌシはこのまま平穏に暮らしていける可能性は低いと考えてるみたい。この場所がばれた時に人間達がこの場所を隔離する可能性があるんだって!」


「マリモ、隔離って何?」


「そうだな、簡単に言うと遠ざけるって感じだな」


「別に隔離しても問題ないんじゃないの?」


「あたしもそう思っていたんだけど、そうなるとヘルパーさんがここに来れなくなって冷凍フルーツとかが手に入らなくなるんだって!」


「ダメだよ!!」


「うぉ!タワシ、急に大きな声を出すなよ。頭に響くだろう」


「あ、ごめん。でもそれはダメだよ!『ここ付近で人間を見た時の対処法』って具体的にどうするの?」


「そうね。あたし達は基本的に日中はヤヌシの体にくっついてるし夜は見回りがある。守護対象になった場合にどうなるのかは分からないけど、あたし達が出来ることはやっておきたいの?後悔しないためにね」


「同感だ」


「僕も!」


「まずはヤヌシにくっついている時に人間を発見した場合。先生に報告することを第一としましょう。私は樹にお願いすればその場で先生に報告できるしマリモも風で報告できるんでしょう?」


「あぁ、問題ない」


「その場合、タワシは絶対にヤヌシから離れないでよ。時間稼ぎ担当ね。先生からやっつけても問題ないって言われているから。好きにしていいわ」


「わかった!」


「私達全員が離れてる時はご飯の時以外だと夜の見回りぐらいね」


「その時はどうする」


「それが一番の問題ね。見回りは絶対に欠かせない。時間をずらして行いましょう。タワシがこのあたり担当だからあたし達よりもすぐに終わるわ」


「なら俺がタワシと交代で見回りに行こう。早さは俺が一番だからな」


「そうね。そうしましょう。タワシ、何か分からなかったことはある?」


「大丈夫だと思う!」


「明日から実行しましょう。夜の見回りの余った時間は各自の寝床で睡眠するのも良かったけど、私達は別に寝る必要もないから問題ないわね」


「そうだな。守護対象になったらもっと安全になるだろうからそれまでの事だ」


「大地様が本当に来るのかな?」


「そうね。立候補するって言ってたからそうでしょう」


「大地様が来たら何の問題もないけど、毎日緊張しっぱなしになりそうだな」


「そうだね。でもヤヌシの安全が第一だよ!」


「あたし達でも人間なんかには負けないんだから協力してやっていきましょう!ある程度は決まったわね。それじゃあ話を戻すんだけどこの集会の名前を考えましょう?」


 あたしは何とかこの集まりの名前を決めたかったが結局良い名前は決まらなかった。

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