第44話

 ヘルパーさんとミカンちゃんが来た日の夕方、所長さんから電話がかかってきた。次の訪問日に所長さんと奥さんがヘルパーさんについてくるらしい。所長さんは分かるけど奥さんは何で来るのだろう?


 出来れば私一人の時に地中の『守り人』を掘り起こしたかった。心配してくれるのは嬉しいけど、他の人を巻き込みたくはない。


 所長さんの申し出をしぶしぶ了承してから4日経った。これと言って変わった事をするわけでもなく、私はいつもの生活を過ごしていた。タワシ達も元気いっぱいだ。


 私は今日と明日でボイスレコーダーにヘルパーさんの日の購入予定品を録音するつもりだ。 朝食の準備を行っているといつも通りタワシ達がやって来た。


 私はタワシ達に挨拶をして冷凍フルーツが入った容器をテーブルに持っていく。 タワシ達はテーブルで私の帰りを待っている。ここまではいつも通り。普通の朝だった。


 自分の冷凍フルーツを取りにキッチンへ移動した瞬間、背中に衝撃が走った。何かが首に絡みついている。


「ねぇ、それ私も欲しいな」


 何かあるといつもタワシとトウキがすぐに私の体に移動してきた。だが何故か今日はやってこない。どうしたんだろう。


 私は最近の出来事で耐性がついたのかそこまでパニックにはならなかった。むしろ「またか」という感じだ。


 でも喋れる『守り人』は先生以外で初めてだ。


「初めましてだよね。冷凍フルーツが欲しいの?」


「うん!」


「分かった。君の体はどれくらいの大きさなの?」


「そんなの見ればわかるでしょ?」


「見たいのは山々なんだけど、私は目が悪いからほとんど見えないんだよ」


「本当に?」


 背中の子がそう言った瞬間。ヒュンヒュン音がする。


「何をしているのか分らないけど、タワシ達と傷つけるなら許さないよ」


「タワシ達?あぁ、この子達か。君達、顔を上げていいよ」


 顔を上げるって何?どういう状況なの?


「で、どれくらいの体の大きさなの?」


「こっちの大きい樹の守護者と同じくらいかな」


「トウキと同じね。分かった。ちょっと待ってて」


 私はトウキと同じラーメン丼に冷凍フルーツを入れてリビングへ向かった。タワシ達はどうしているのだろうか。


「タワシ、トウキ!良く分からないけど食べるよ。君も食べていいからね」


 足元にラーメン丼置く。


「ありがとう。いただくよ」


 新しい守護者が気にはなるが、私は朝食を食べ始める。テーブルがいつもの咀嚼音で賑わっていく。


「これはおいしいねぇ。この子達は毎日これを食べているの?」


「うん、出会ってからは毎日だね。私も楽しんでいるから良いんだよ」


「君は優しいんだね。人間にしては」


「人間にも優しい人はいっぱいいるよ。悪いやつばっかりじゃないさ」


「そうだよね」


「君達『守り人』は人間の悪い部分ばっかり見ているから仕方ないと思うよ」


「君はなんでこんな場所に住んでいるの?目がかなり悪いのに」


「目が悪いのは関係ないさ。この場所は家族との思い出が詰まっているからね」


「そうか、そういう人間もいるんだね」


「聞いていいのか分らないけど、君も『樹の守護者』なの?」


「いいや、私は『大地の守護者』さ。まぁ目の悪い君にはとっては樹だろうが大地だろうが関係ないかもしれないね」


 言われてみれば、あんまり関係ないかも。


「確かに。そういえば自己紹介がまだだったね。私の事はヤヌシと呼んでね。今日は冷凍フルーツをもらいに来ただけってわけじゃないんでしょう?」


「見た瞬間に食べてみたかったのはあるんだけどね。本当の目的は君が守護対象に値するか見に来たんだよ」


「前に先生が言っていたやつか~。そういえば色々あってどんなものか聞くのを忘れていたよ」


「先生って誰だい?」


「ここによく来る樹の守護者だよ。知らない?」


「たくさんいるからね。あってみないと分からないよ。でも・・・。ふふっ。普通は守護対象って言われたら気になると思うんだけど」


「最近は君たち守護者のおかげで毎日忙しいのさ。あとで詳しく聞いても良いかい?」


 この守護者は声がとても幼い。小学生と話している気分になる。


「良いよ~。あと今日1日は君にくっついて見学させてもらって良いかな?」


 何を?面倒になってきたので自由にさせよう。


「別にいいけど、面白くもなんともないよ。それでも良いなら」


「問題ないよ。じゃあよろしくね~」


 冷凍フルーツを食べ終わった大地の守護者は私の体をよじ登ってきた。そして首に手をまわしておんぶしているような形になった。


「タワシ、トウキ。食べ終わったかい?」


 どうしたんだろう。反応がない。


「お前達。良いからいつも通りにしなさい。じゃないと私も判断できないだろう」


 私に対してと少し話し方が違う。この話し方が本来のしゃべり方なのかな?大地の守護者がそう言うとすぐにタワシ達が定位置にやってきた。私はみんなの食器を回収してキッチンへ向かう。洗い物をしてリビングへ戻りコーヒーを飲む。


 どうもタワシ達が遠慮している?気がする。もしかして守護者にも上位関係があるのかな?


「え~っと、大地の守護者くん。聞きたいことがあるんだけど良いかい?」


「いいよ~。何だい?」


「君たち守護者の中でも上下関係は存在するの?」


「あるよ~。先生って守護者からどこまで聞いてる?」


「守護者には「樹」「大地」「水」「陽光」があると聞いてるよ」


「そう。偉い順番でいうと『大地』>『陽光』>『樹』=『水』だね」


 だからタワシ達が委縮してしまっているのか。先生は大地の守護者が来ているのを知っているのか?


「ありがとう。今日君がここに来ていることを先生は知っているのかな?」


「知らないよ~。そもそもその先生がどの樹の守護者か分からないから!」


 一応知らせておくか?


「トウキ、タワシに先生を呼んできてもらうようにお願いしてくれる?」


 トウキが私の足を軽く2回叩く。少しして肩からタワシが降りて先生を呼びに行った。

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