第14話

 足に何かがしがみついている。この現状をどうすべきか悩むが答えは出ないし肩のタワシは相変わらず足踏みしている。


「はぁ、どうしよう。君も冷凍フルーツを食べるかい?」


 下を向いてダメもとで声をかけてみる。緊張でちょっと声が上ずってしまった。 すると抱き着いている子が足を二回叩いてきた。叩くと言っても「ポン、ポン」と軽くである。もしかして言っていることを理解できてる?


「もし私が言っていることが分かっているなら足を2回叩いてみて」


 するとまた「ポン、ポン」と軽く足を叩いてくる。ため息がでる。さっきまで恐怖で緊張していたのに脱力感がすごい。


「今から何個か質問するよ。『はい』なら二回、『いいえ』なら一回、足を叩いてほしい。もし何を言っているのか『わからない』場合は足を叩かなくていいよ。分かった?」


 足が二回軽く叩かれる。すごい!ここ最近で一番の感動かもしれない。コミュニケーションが取れるとは思わなかった。


 タワシが肩で動き続けているが今は無視だ。


「君は人間?」


 足が一回軽く叩かれる。


「じゃあ、肩にいる子の仲間?」


 足が二回軽く叩かれる。そうか。じゃあイマジナリーフレンド的な存在ということか?


「もしかしてご飯をもらいに来たの?」


 足が二回軽く叩かれる。


「タワシと一緒のご飯でいいの?」


 何も反応がない。分からないのか?あぁ、そうか。現在進行中で私の肩で足踏みしてる子のことを「この子」の前でタワシと呼んだのは初めてだった。そこから説明しないといけなかったね。


 そもそもタワシに名前を付けて声に出して呼んだのも初めてかも。


「ごめんね。肩にいる君の仲間を私はタワシと呼んでいるんだよ。では改めて聞くね。ご飯はタワシと一緒でいいの?」


 足が二回軽く叩かれる。


「分かった。準備するから待っててね」


 足が二回軽く叩かれる。「この子」は足にしがみついたままだ。タワシといい私の体に触れておかなければいけないというルールでもあるのだろうか?


 足に重りがついて動きにくいが朝食の準備の続きを始める。朝食が終わったらいろいろと質問をしてみよう。「この子」は体が大きいからそれなりに冷凍フルーツが必要だろう。ラーメン丼にでも入れようか。


 今日は冷凍のイチゴだ。いつもよりも大きめの冷凍フルーツだ。タワシはいつもの冷凍フルーツよりも時間をかけて食べる。だが「この子」の場合は大丈夫だろう。テーブルにタワシと「この子」の冷凍フルーツを持っていく。

 さすがに「この子」の分は床に置こう。この大きさでテーブル上がられるのはちょっと困る。タワシと「この子」が体から離れた。重かったぁ~


 身軽になった私は自分の分の冷凍フルーツとヨーグルトなどを取りにキッチンへ戻る。何かテーブルがすこし騒がしい。食べている咀嚼音ではない。テーブルに戻ってきてイスに座ると静かになった。何か食べづらいな。

 知らぬ振りをして冷凍フルーツを食べ始める。すると一斉に咀嚼音が聞こえる。


 もしかしてタワシが「この子」に私が帰ってくるまで食べるのを待つように言っていたのか?


 それにしても賑やかだ。タワシは分かっていたが、「この子」も負けず劣らずだな。 私はゆっくりと冷凍イチゴを食べていた。最近、大きめの冷たい物を食べると歯がしみる。知覚過敏か?ヨーグルトと交互にゆっくり味わって食べる。


 二人?が食べ終わったようだ。また私の体にくっついてきた。足が重いなぁ。私はキッチンへ移動して片づける。これが終わったら「この子」に質問を始めようか。


 答えてくれるといいなぁ。片づけが終わったのでお茶を持ってテーブルに移動する。私はイスに座って下を向く。


「今からまた君に質問したいことがあるんだけど、答えてくれる?」


 足が二回軽く叩かれる。


「ありがとう。その前に少し君を触ってもいい?」


 足が二回軽く叩かれる。


「気づいているかもしれないんだけど、私は目がほとんど見えてないんだ。もし変なところを触ったらごめんね」


 そう言って私は「この子」を右手で触ろうとする。まずは自分の太ももを触り、そこから下へ動かしていく。少し緊張するな。すると手?足?が私の手を触ってきた。


「これは君の手かな?」


 足が二回軽く叩かれる。手はピンポン玉くらいの大きさだろうか。触り心地はとてもすべすべしている。ペットボトルを触っているような感じがする。いやプラスチックみたいと言うべきか。


「ありがとう。とてもいい触り心地だね」


 お礼を言って私は手を離した。


 さすがに「この子」にも呼び名をつけないと不味いかな?タワシにも呼び名はつけたし、これからもコミュニケーションを取るのなら必要だよね。


『ペットボトル』じゃ長いしな。すべすべしてるようなもの・・・。そうだ陶器!『トウキ』と呼ばせてもらおう。


「君のことは『トウキ』と呼んでいいかな?」


 足が二回軽く叩かれる。


 良かった。トウキに私の記憶障害のことは言う必要はないだろう。でも私の呼び名も言うべきだよね。何か良いのはあるかなぁ。とりあえず家の主、『ヤヌシ』と名乗っておこう。


「私は『ヤヌシ』と言うんだ。よろしくね」


 足が二回軽く叩かれる。


 この呼び名なら大丈夫だろう。今のところ、『タワシ』のような物の名前もちゃんと覚えている。『ヘルパーさん』や『所長さん』といった職業や役職は大丈夫だと分かっていた。ここら辺のさじ加減が良く分かっていないのが私の記憶障害の困った所だ。


 少し話がそれてしまった。トウキに聞きたいことはたくさんある。ゆっくりと聞いていこう。

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