第34話
一連の騒動は先生の登場で幕を閉じた。先生から話を聞くとタワシを虐めていた『守り人』が私のお腹に突っ込んできたらしい。タワシに対する嫌がらせだろうという事だ。先生がかごの中に捕まえたらい。
私は自分のお腹を触る。触った感じだと問題はない。
「先生、私のお腹はどうなってますか?」
「え?あぁ、赤紫色みたいになってますね。申し訳ない。私の教育が今回の騒動の発端でもあります」
「教育ですか?」
「はい、私はこの子達に人間には近づくなと教えていました。そして人間は敵であると。トウキもタワシがいなかったら私の教えを守ってあなたには近づかなかったでしょう」
「タワシは?」
「あの子は例外ですね。言っても聞かない子なので」
タワシは普段から周りに迷惑かけているみたいだな。そうだ!!
「タワシ、トウキおいで!」
タワシ達が定位置に落ち着く。私はタワシ達を捕まえて抱きしめた。
「ありがとう。君たちがいなかったら私は死んでたかもしれない。でも無理はしないでほしい。私の両親みたいに急にいなくなってしまったと思って心配したんだから」
私達の付き合いは短い。一か月もたっていない。なのに、この子達は私の中で家族のカテゴリーに入っている。
私は少し泣きそうになっていた。家族を事故で亡くした時のように、タワシ達も急に私の前からいなくなる感覚があったからだ。タワシはどういう反応をしているか分からないが、トウキは私の腕を力強く抱きしめていた。
「ヤヌシ、君は本当にこの子達を仲間だと思っているんだね」
「えぇ、最初はともかく今では家族同然だと思っていますよ」
「そうですか・・・。私が見てきた人間の中で、ここまで私達とつながりがある人間はあなたが初めてかもしれません」
人間は『守り人』を見たら逃げ出すと聞いている。だとしたら人間とつながりを持つこと自体が難しいだろう。タワシが来なかったら私もどうなっていたかわからなかった。それに私の目が悪いことも大きいと思う。
「先生も来てくれてありがとうございました。木から聞いていたんですか?」
「いえ、常にここの樹から話を聞いているわけではないので。トウキが樹を通じて私に信号を出してきたんですよ」
「なるほど。それで、あの地震は先生が起こしたんですか?」
「地震?あぁ、私が地面から出てきたんですよ」
「地面から出てきた?穴を掘ってきたんですか?」
「えぇ、それが私にとって一番早い移動方法なので」
平然と言ってのける先生。地震が起きるレベルってどういう穴の掘方してるんだ?
「凄いとしか言いようがありませんね。それにしてもこの子達はよく頑張ってくれたました。何か欲しいものがないか聞いてくれませんか?」
「ちょっと待ってくださいね。えぇ、タワシが?わかりました。タワシもそれでいいですか?はい、二人の話がまとまりました」
「早いですね。何が良いって言ってますか?所長が持ってきてくれたチーズケーキとか?」
「いえ、あなたが前にタワシに作ったケーキが食べたいそうですよ。トウキも食べてみたいと」
バターケーキの事か?タワシはそんなに気にいってくれてたのか。うれしいな。
「バターケーキの事ですかね。分かりました。材料もあるので近いうちに作りましょう」
私の腕の中にいるタワシ達が激しく動き回っている。ヘルパーさんじゃないが、この光景を写真に撮ってみたい。たぶん可愛いのだろう。
「ヤヌシ、私も食べてみたいのですが・・・。いいですか?」
先生が控えめに言ってくる。今回の原因を作った1人?だと思うが、私達、人間が地球にやっていることを考えると敵認定されても仕方ないんだよなぁ。今回は先生に助けてもらった。甘いかもしれないがOKという事にしよう。
「もちろん!先生にも助けてもらいましたから。素人が作るケーキなのでこの間のチーズケーキよりはクオリティは下がると思いますが、出来立ては中々美味しいものですよ」
「それは楽しみですね。やる前にトウキに伝言をお願いしますね」
「分かりました。絶対伝えましょう」
先生の教えのせいで今回の件がおきたからと言ってもともとの原因は我々人間による環境破壊だ。自然からしたら敵と思われても仕方がない。先生を責めようとは思わなかった。
話がまとまりつつあり、私も家で横になりたかった。なのでここで話を終わらせて帰ろうとした、その時。
「ヤヌシ、この子はどうしますか?」
一番忘れてはいけないものを忘れていた。みんなが無事でうれしかったのとケーキの話で存在を忘れてしまっていた。
「そうですね。先生はどう考えますか?」
「私としてはヤヌシとこの子達にどうするか決めてもらうのが一番だと思います」
「そうですか、タワシ達は何て言ってますか?」
「タワシは二度と近づかないように遠くに連れてってほしいと言ってますね。トウキはできれば大目に見てあげてほしいと」
以外だなトウキはもっと厳しくすると思っていた。
「トウキは自分もこうなっていたかもしれないと思っているのですよ。他人事だと思えないみたいですね」
なるほど。先生の教えを忠実に守っていたらこうなっていたかもしれないという事か。
「かごに入っている子は何か言っていますか?」
「俺は悪くないと」
「分かりました。私とタワシ、トウキに謝ってくれるなら私は許しますよ。タワシ達はどう?」
「トウキはそれでいいそうです。タワシは嫌がっています」
「タワシ、この子は君を探していたんだと私は思うよ。私が君と一緒に居たから心配して私を攻撃したんだと思う」
多分だけどタワシを気にしてたからここまでたどり着けたんだと思うんだよね。ガシャガシャと凄い音がする
「かごが激しく揺れてますね。中ですごく暴れています。違うと言っていますよ」
「なるほど、でも謝らないのなら私にも考えがあるよ」
急に静かになる。
「考えとは?」
「先生、守護者は死ぬことはありますか?」
「基本的にはないです。それこそ星が滅ぶとかしないと」
「なら私の要求はですね。まず先生に地面に穴を掘ってもらいます。先生が掘れる最高の深さまで。そこにその子を置いて埋めます。謝らないと地球が滅ぶまで二度と空を飛ぶことはできないでしょう」
なぜだろう。その場が凍りついた気がした。
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