第217話
今日はミカンちゃんが保護者をつれて運転練習に来る日。これと言ってやることがない私はいつも通り花壇に水やりを行ったりしてミカンちゃん達が来るまで時間をつぶしていた。
リビングで座っていると膝の上のメッシュが話しかけてきた。
「なぁヤヌシ。今日来る人間はすごいんだろ?」
ちょっとメッシュを脅かしすぎたかな?でもすごいか・・・。うん、そうだね。
「すごいよ」
ミカンちゃん、ごめんね。私はメッシュに嘘がつけないよ。
「俺の持っていた人間のイメージがどんどん崩れていく」
「言っておくけど今日来る人間は特殊だからね。そこは勘違いしないで。所長さんや青さんが普通だからね」
「そうなのか?今の所は俺の中でヘルパーさんが一番おかしい人間だと思っている」
Uさん。・・・。メッシュに言い返せないや!ごめんね。
「まぁまぁ。Uさんは可愛いものが好きなんだよ。今日来るミカンちゃんも同じ思考の持ち主だ。慣れるまで大変かもしれないけど悪い人間ではないよ」
「ヤヌシの友人なら大丈夫だと思うが・・・。それでも不安になるんだ」
「ごめんね。残念な友人で」
「でも何をするためにここに来るんだ?」
私はメッシュにミカンちゃんの目的を教えてあげた。
「人間も大変だな。俺達みたいに走れれば問題ないのに」
「確かにそっちの方が楽だよね。でも私達人間にはその方法は無理だ。その代わりに車とかがあるんだよ」
「なるほどな~。そのための練習か。この場所は人間がいないから練習するには適しているな」
「そうでしょ?」
「来たわ~!行ってくる~」
いつも通りオモチの分体がUさん達を迎えに行った。私も玄関に移動する。ネコが私の首周りをうろうろしている。どうしたの?
「トウキ~。ネコが落ち着かないんだけど、どうしたのか聞いてくれない?」
「いいわよ~。どれどれ?・・・。うん。分かったわ!」
「なんだって?」
「また知らない人間が来ると思ったみたい。昨日みたいにヤヌシと離れたくないから少しソワソワしてたのね」
そんなに嫌だったのか。でも今後はこういう機会が増えるから慣れてもらわないと。
「じゃあ教えてあげて。Uさん達が来るってこと」
「はいはい。・・・。これで大丈夫よ!」
「ありがとう!助かるよ」
ネコがいつもの場所で落ち着きを取り戻した。良かったね。でもすぐにUさん達が来るから忙しくなるよ?
「ヤヌシ来たよ~!ヘルパーさん、おはよう!!」
タワシが私の右肩の上から挨拶をしている。ちょっと声の大きさを抑えよう。頭が痛いよ。足音がいくつか近づいてくる。でも少し足音の数が多い。
「ヤヌシちゃん、おはよう!!」
私は急に抱きつかれた。誰かは分かっている。春さんだ。でも今日は来ないはずでは?
「春さん、おはようございます。色々聞きたいことがあるんですが良いですか?」
「良いわよ。でもまずは挨拶させて。あなたがメッシュちゃんね。私が抱き着いたら逃げると思ったけど逃げないのね」
「別に逃げる必要はないだろう。お前の事は聞いている。お前がミカンだな?」
「残念。ミカンは私の娘よ。私は所長の妻で━━━━です。春さんって呼んでね!」
「ヤヌシ。聞いていた話と違うぞ。これが人間の普通なのか?」
「いやこの人もどっちかと言うと普通ではないよ」
「本人を目の前にして何を言っているの?メッシュちゃん。私は普通よ。勘違いしないでね」
春さんが圧強めでメッシュに話しかける。
「そ、そうか。よろしく」
「よろしくね。それにしても聞いていた通りカンガルーみたいね。ズボンは大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。意外と気にならないです」
「へぇ~。ちょっと待ってね」
春さんがそう言うとそのあとにシャッター音が響く。もう何も言わない。
「もう良いですか?まだ他の人に挨拶が済んでないので」
「それもそうね。ほらみんな!さっさと済ませて!」
自分が済んだから適当だな。まぁ良いけど。
「おはおう!ヤヌシ君。度々来てごめんね」
「Uさん、別に良いよ。どうせ私は暇だから。でも良かったの?明日はヘルパーさんの日だからまた来ることになるよ?」
「良いのよ。明日は仕事だからみんなと遊べないしね。それに新しい冷凍庫を見ておきたくてね」
また職業病が出てますよ。せっかくの休みなんだから。
「そっか。それで青さんとミカンちゃんは?」
「ここにいるよ、ヤヌシ君!メッシュさんに私の悪口を吹き込まないでよ!」
「メッシュ。この人がミカンちゃんだ。ミカンちゃん。自己紹介を」
「え?は、はい。私が所長の娘で━━━━です。ミカンと呼んでください」
「お前が・・・。メッシュだ。よろしく」
「はい、よろしくお願いします!」
普通に自己紹介が出来たね。何か拍子抜けだ。
「なぁヤヌシ。何でみんな名前が二つあるんだ?」
メッシュが私に疑問を投げかけてきた。そういえば私の記憶障害の説明をしていなかった。この後に説明するとしよう。
「あとで教えてあげるよ。あとは青さんは?」
「ここにいますよ。おはようございます!昨日に引き続きお邪魔します」
「いらっしゃい!今日もよろしくお願いします!」
「青ちゃんだけ扱いが違わない?気のせい?」
「気のせいですよ。それですぐに自動車の練習に行くんですか?」
「はい。さっさと済ませた方が良いと思いますので。行きましょう。━━ちゃん!」
「は~い。あとで話しましょう。メッシュさん!」
「え、俺?お、おう」
足音が早足で遠ざかっていく。無事に帰ってきてください。
「じゃあ俺も行ってくる!」
マリモ達もついて行ったみたいだ。
「タワシちゃん。ちょっと待って!」
「何?春さん」
「タワシちゃんには用があるの。一緒にお話ししましょう?」
「え~。僕、あっちに行きたい~」
「あとで車に乗せてあげるから。ね!それで良いでしょ?」
「しょうがないな~。分かった!」
もしかして春さんはミライに会うつもりなのかな?青さんがいると会えないし。
私達はミカンちゃん達を見送って家の中へ入っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます