第108話

 我が家に怪しい電話がかかってきたので私はすぐに所長さんに連絡した。これからの事について所長さんと話し合うためだ。私は自分の事よりも所長さん達の方が心配だと伝えた。私にはオモチ達がいるからね。


 危ないとしたら恐らく一人暮らしのUさんではないかと話し合っているとマリモが私の頭の上から話に参加してきた。


「なら今晩だけ俺がヘルパーさんのそばに居ようか?」


「良いの?というか『守り人』が自然の多い場所から離れて大丈夫なの?」


「あたしが見る限りだとあの街はそこまで自然がないわけじゃなかったわ~。あれだけあれば一晩は余裕でしょう」


 オモチが説明してくれる。オモチはこの間、Uさんについて街まで行ったからさじ加減が分かるのかな?


「そもそも『守り人』は自然の少ない場所に行くとどうなるの?」


「ちょっと疲れるくらいかしら~。ただこの子達みたいな守護者は育樹の世話があるから担当場所から離れたくないのよ」


 ちょっとね・・・。『守り人』達にとってのちょっとがどれくらいか全くわからないが。それでも育樹から離れたくないはずなのに言い出してくれたことは素直に嬉しい。


 この場にいる『守り人』達だとタワシはUさんとコミュニケーションが取れないから難しいし、トウキは大きさ的に目立つ。オモチは水が常に必要だから長時間は厳しい。マリモが一番適しているとは思う。


「なるほど。本当に良いの?マリモ」


「良いぞ。というかこの中だったら俺が妥当だろ?トウキ、俺の担当を今日だけ頼んでいいか?」


「任せて!マリモ、あたしの分までヘルパーさんをお願いね」


「でも場所が分からないよね」


 私はそうつぶやいた。マリモが行ってくれるのは助かるが、Uさんが今どこにいるか分からない。


「なんでだ?オモチが分かるだろ?」


「そうなの?」


「当たり前じゃない!」


「いや、当たり前の要素はなくない?」


 何でそこまで言い切れるのかさっぱり分からない。


「毎回Uさん達が帰る前に手水舎の水を車にくっつけているの。同じ水の量でどこまで分体を維持できるかとか色々と試してるのよ。もちろんヘルパーさん達は知らないわ」


「マリモはそれで追跡できるの?」


「オモチの水は空から見るとよく分かるから大丈夫だ。任せろ!」


「ちょっと待ってよ」


 私は電話を耳につける。


「すみません、所長さん。こちらで話が進んでしまって。今日だけマリモが護衛してくれるそうです」


「え?そんなことできるの?」


「らしいです。マリモにお願いしようと思うのですが、春さんに先に連絡してもらえませんか?今から行くと」


「分かった。じゃあ切るね!」


 カチャっと音がする。私もマリモにお願いしないと。


「マリモ、お願いして良いかい?明日の朝まで」


「俺に任せろ」


「頑張ってね!マリモ」


「最悪、何かあったら水を出してあたしを呼びなさい。少し時間はかかるけど駆けつけるわ~」


 右肩の上でタワシが激しく動いている。激励しているんだろう。


「分かった。行ってくる!」


 私の頭の上の重さがなくなった。行ってくれたみたいだな。まさかマリモが自分で行くと言い出すとは思わなかった。マリモも人間に対して考え方が変わってきているのだろうか。


「オモチ、ちなみにUさん達は今どれくらい離れているの?」


「そうね~。この間行ったスーパーの近くにいるみたいだわ。止まっているみたい」


「渋滞か買い物をしているのかも。それか電話を受けて止まった可能性もあるな」


「ん、マリモが合流したわ」


「もう?早くないか?」


「ヤヌシ、空が飛べる守護者ならこれぐらいの距離なら一瞬よ~」


 オモチが飽きれたように私に言ってくる。私はそんなの知らないよ。


「でも良かった。無事にUさん達と合流できたのなら。オモチ、もしかして分体出してる?」


「もうそんな余裕はないわ~。あとはマリモに任せましょう」


「そうだね」


 Uさん達に何事もなければいいんだけど。もし何か事を起こすつもりならここに来てほしい。何でこんなことを考えなければいけないんだろう。『守り人』が人間を嫌うのが良く分かるな。本当に面倒だ。


「マリモはUさんから美味しいものを食べさせてもらっているかもね」


「本当?」


 トウキがすぐに反応する。君はさっきいっぱい食べたでしょ?


「かもしれないだよ。Uさんがお礼に何か出してそうな気がする」


「いいな~!」


「さっきいっぱい食べたでしょ?それにマリモは遊びに行ったのではないんだからね」


「は~い!」


 トウキが大きな声で返事をする。もしかして街に行けて羨ましいのかな?


「オモチも何かあったら教えてほしい。私が寝ていても構わないから」


「了解~」


 私はキッチンへ移動し晩御飯の準備(冷凍フルーツだけ)をしていた。それを持ってリビングへ移動していると右手から先生の声が聞こえる。


「ヤヌシ、聞こえますか?オモチから聞きましたが皆さん無事ですか?」


 オモチはいつの間に先生に連絡してたんだろう。というかどうやって?


「大丈夫ですよ。ありがとうございます。マリモもヘルパーさんの所に行ってもらいました」


「えぇ、聞いてます。あの子から言い出したのは予想外でしたが大丈夫です。今、砂岩様と一緒にいるので代わりますね」


 代わることが出来るの?この指輪、所長さん用にも作ってもらおうかな。


「久しぶり~。元気?」


「元気だよ。砂岩も元気?あれからコーヒー飲みに来ないじゃないか」


「忙しくてね~。本当は行きたいんだけどさ。でね今日は例の件についてだよ」


「うん。分かってる」


「今しがた話はつけてきたよ。それでね。もしそっちに誰か来た場合は僕らのやり方で処理させてもらうから。それを伝えたくてね」


「分かってるよ。ただ実行する場所は私の敷地外でお願いできない?やり方について私は口出ししないから」


「意外だね。何か言われると思ったから説明役を先生に変わってもらったんだけど」


「砂岩はミライの事も聞いているんでしょ?君達にとって育樹がどれだけ大切かは分かっているつもりだ。私よりもそっちを守りたいんだろ?」


「そんなことはないよ~。ヤヌシも育樹のミライも両方大切だ。それに手出し無用と言っている場所に手を出してくるんだ。さすがに許せない」


 砂岩様モードの話し方になってきているな。相当怒っていると見える。


「私は人間が作っているこの星に必要のない人工の島でも潰してやろうかと思ったのだが、周りから止められてな。だが、もしこれ以上変なことをするようなら誰が何と言おうと潰すつもりだ」


「そう・・・。何もないことを祈るよ。国からは近い内に改めて所長さんに連絡がいくと考えていて良いの?」


「ん?ん~、そうだね。明日には連絡すると言っていたよ。電話ではなく直接行くって言ってたけど」


「本当?それ所長さん知っているのかな?」


「ごめん。そこまで聞いてないや」


「分かった。このあと連絡しておくよ」


「お願いね。今度の集まりはとても楽しみにしてるって言っておいて」


「分かった。いつだっけ?」


「三日後だよ!知らなかったの?」


 知らないと言うか私抜きで話が進んでいるからね。


「近い内としか聞いてなくてね。分かったよ!」


「よろしく頼むよ!楽しみにしてるんだから。じゃあ、また三日後ね!」


 指輪は静かになった。私はトウキにお願いしてもう一度所長さんに連絡してもらい明日の事を伝えた。この後も何事もなければいいんだけど・・・。

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