自由奔放すぎる守り人
矢空ふみや
第1話
5月が終わり梅雨入り目前の今日この頃。
私はキッチンで立ち尽くしていた。
身動きの取れないこの状況で、なぜこんなに不幸が続くのか昔のことを思い出していた。
私は岡山県のとある山奥で1人で住んでいる。
いわゆる限界集落と呼ばれるような場所である。
数年前までは両親と私の家族3人でこの家に暮らし、米を作って生計を立てていた。
だが父の誕生日、街まで外食に出かけた帰り道にトラックが私達の乗った車に正面から突っ込んできた。
両親は亡くなり、私もその事故で顔を強く打ち付けた。
病院での診察結果は顔面の骨折。記憶障害。
そして左目は失明。右目もほとんど見えていないと診断された。
記憶障害で1番の問題は人の名前が思い出せない。覚えられないことだった。
目が覚めて初めて病院の先生が私の名前を呼ばれた時、「━━━━さん」と聞こえた。
思い出せないというのはよくあるらしいが、名前の部分だけ聞き取れないというのは聞いたことがないと先生に言われた。
私は自分の名前もわからない。亡くなった両親の名前でさえわからなかった。
自分の名前や親の名前が思い出せないときベットの上で人目にかかわらず泣いてしまった。
だが幸いなことに記憶に関してはそれ以外問題はなかったし、顔の手術跡もそこまで目立たないらしい。体も首から下には怪我や骨折などはなかった。
退院してからは施設に入ることを進められたが、住んでいた家から離れたくなかった私は施設入りを拒否し入院中に自立訓練を頑張った。
具体的には白状の使い方やボイスレコーダーや拡大鏡の使い方をならったりした。
本来ならバスや電車の乗り方やパソコンの使い方を教えてくれたらしいのだが、乗ることや使う機会がないと判断して実施しなかった。
点字もやってみたが打つことができても読むことができない。
私には難しすぎたみたいだ。
頑張ったおかげで顔面骨折がすべて治った頃にはなんとか1人暮らしができるぐらいにはなっていた。(家から出ない前提)
お金に関しても慰謝料や保険金で生活費を賄うことができるので心配ない。
むしろ多いぐらいだ。
入院しているときにお見舞いに来てくれた人がいた。
亡くなった両親の知り合いで居宅介護の事業所の所長をしているらしい。
私はその場で所長さんに家事援助のヘルパーさんをお願いした。
理由は一人暮らしを始めてたら買い物と掃除が難しいと分かっていたから。
それ以外は1人で生活できるように退院してから所長さんにお願いして一緒に家を改造していった。
所長さんにはたくさん助けてもらった。本当に頭が上がらない
それからは週に1度のペースで女性のヘルパーさんが私の家に訪れている。
やっと少しずつだが生活のリズムが整ってきた。平穏が私にとっての幸せだった。
そう思ってきた矢先、今現在とても困っている。
ここで話は冒頭に戻ってくる。
ことの発端はいつも通りに朝食の準備をしている最中の出来事だった。
デザートに冷凍のブルーベリーを食べようと袋から容器にうつした時、「何か」が右足にしがみついた
そして肩まで登ってきたのである。
「何か」が何の動物なのかはわからない。
首を動かすことも躊躇うし、動かした所で私の右目は視野狭窄のせいでストローぐらいの円の幅くらいしか見ることができない。
体が硬直し時が止まったようにさえ思えた。とりあえず何もしないまま動かずに様子を見ることにした。
右手に持っている冷凍ブルーベリーの袋がとても冷たい。
できれば早く冷凍ブルーベリーの袋を冷凍庫に戻したいのだが…
そんなことを考えていると「何か」は肩から降りていった。
そして気がついた。
肩から降りている時は服に引っかかったような「ザリザリ」という音がするが、足から離れた瞬間から音が全くしないのである。
ど田舎なのでネズミもよくいるが、そんなやつらでもそれなりに足音がする。
そこら辺にいる野生の動物が畳の上をすり足で歩いているとは思えない。
肩にのった「何か」の重さはそれなりの重さだった。
少なくとも硬式の野球ボールぐらいはあると思う。(肩に動物を乗せたことがないので大体だが)
その重量の動物が足音なしで移動できるのだろうか。
肩から「何か」がいなくなって数分間は念のため動かなかった。
そして私はゆっくりと動き出しテーブルの上に冷凍ブルーベリーを入れた容器をおいてキッチンへ戻った。
6月になるとそれなりの暑さなため持っていた冷凍ブルーベリーの袋は半解凍ぐらいになっている。
それを冷凍庫にしまった。そしてヨーグルトを冷蔵庫から出し、スプーンを持ってテーブルに戻ろうとするとテーブルの方から音が聞こえる。
「カラカラ」と冷凍ブルーベリーと容器が擦れ合う音ようだ。かなり激しく聞こえる。食べているのを私に隠す気はないようだ。
薄々気が付いてはいたが、「何か」はブルーベリーを狙っていたみたいだな。
おそらく勢いよく食べているのだろう。
願わくばそれを食べてお腹でも壊してくれ。食べ物の恨みは恐ろしいんだぞ。
そんな願いは叶わず、その日から「何か」は朝食時になると私の肩に乗ってくるようになっていた。
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