第160話
私の手の中には幼い『守り人』がいる。少しでも安心させてあげたいと考えた結果、前にUさんから聞いた動物のあやし方に挑戦してみた。Uさん曰く両手で動物の顔を触ってあげると良いらしい。『守り人』に効くかどうかは分からないが試してみようと思ったわけだ。
「ん?先生、もしかして嫌がってます?」
幼い『守り人』が私の親指の辺りを引っ掻いている。不評だったのかな?
「いいえ。少しだけ間を開けてほしいみたいですよ。顔が出せるぐらいに」
昔やった指遊び「いっせーの」のような感じで幼い『守り人』を包んでいたのだが息苦しかったみたいだ。
「はい。これでどう?」
隙間を開けてあげると何か動いている。おそらく親指の隙間から顔を出しているのだろう。想像したらちょっと悪戯したくなってきた。
「は~い。はいはい。どう、楽しい?」
幼い『守り人』を手の中でコネコネしてみた。頑張って親指の隙間から顔を出そうとしているみたいだがそうはさせない。同じことを繰り返す。
「ヤヌシ、ちょっとその子が疲れてますよ。でも楽しそうですね」
「ヤヌシ!僕もやって!!」
いつの間にか帰ってきていたタワシがアピールしてくるが君の背中のトゲは素手ではちょっと難しいよ。
「タワシ。やってあげたいけど背中のトゲトゲってどうにかなる?」
「無理!!」
「ごめんよ、タワシ。私の手がボロボロになってしまうから無理だ・・・。いや、ちょっと待てよ。今度のヘルパーさんの日にやってあげるよ。それでいい?」
「今が良かったけど我慢する!」
「先輩だもんね。我慢できて偉いよ」
鍋掴みをUさんに探してもらおう。たしかどこかにあったはずだ。トウキのぬいぐるみもボロボロになったみたいだし素手では絶対に無理だ。幼い『守り人』が親指をまた引っ掻いている。遊んでほしいのかな?私は幼い『守り人』をコネコネしながらノートとスポンジに話しかけた。
「ノートとスポンジも明日の朝からタワシ達と同じように来ても良いからね。何しているのか聞いているんでしょ?」
「はい聞いてます!良いんですか?」
「本当?」
この二体の話し方は温度差がすごい。他にも『守り人』がいるとは聞いていたけど仲間はずれにすべきではなかったな。たくさん体に張り付かれたら困ると思って他に何体いるのか聞かなかったけど、これぐらいの数なら問題ないはずだ。砂岩からお金をたくさん貰ってるしね。
「もちろん良いよ!この子達のように私の体にくっついても問題ないからね」
「ありがとうございます!」
「ありがと」
「ヤヌシ、そろそろその子にも呼び名をつけてください」
なぜか先生がしびれを切らして私に聞いてきた。まだ説教をするつもりなのかも。
「分かりました。でも先生、ここで説教はなしですよ」
「む・・・。私ってそんなに分かりやすいですか?」
「普段の先生なら絶対に呼び名をつけてとは言いませんからね。顔合わせが済んだら説教を続ける気だったんでしょ?」
「その通りです」
手の中にいる幼い『守り人』が震えている。まだ私の会話は分からないはずだが先生が圧をかけているのかも。
「この子が問題を起こしたのは分かっています。ですがせっかくの初顔合わせです。先生の気が収まらないと言うのならこの子には罰として一週間、飲食禁止としましょう」
「そんな軽い罰では・・・」
「先生。子供にはこれが一番よく効くんですよ。騙されたと思って少し様子をみてください。あとで良く分かりますよ」
「本当ですか?・・・。分かりました。ヤヌシの言うことを信用しましょう」
「わがままを言ってすみません。でもこの後、この子にとってはかなりキツイ状態が続く事になると思いますよ」
食いしん坊の先生も好きな物を目の前で食べられるのはそれなりにきついはずだ。この子には目の前の楽しみに参加できない苦しみを味わってもらおう。
「それはそうと呼び名ですよね。この子はネコです。よろしくネコ!先生、通訳をお願いします」
今回は触った感じではない。思いついた動物の名前だ。触った感じだと「サラサラ」か「ぷにぷに」だったのでさすがにやめておいた。ぷにぷには個人的には可愛いと思うんだけどUさんに擬音は絶対にやめてと言われていたのである。納得いかない。
「さて私はお昼ご飯の準備をしようかな?みんなも食べるでしょ?」
「食べる!!でも何を作るの?」
トウキが元気よく返事をしてくれる。
「Uさんが買って来てくれた水餃子を使おうと思ってね。まぁ水餃子と言っても煮物に近いと思うけど」
「水餃子?前の餃子とは違うのか?」
「それが違うんだよ、マリモ。頑張って作るから楽しみにしててよ」
私はネコをテーブルの上に置いて椅子から立ち上がった。『守り人』達が私の体にくっついてくる。
「新しく三か所『守り人』達が増えているわけだけど・・・。先生。ノート、スポンジ、ネコは何処にいますか?」
「ノートは腰に巻き付いています。スポンジは右腕にしがみついています。それでネコですが・・・」
「分かりました。首元にいるのがネコですね。器用に服にしがみついていますね。落ちるなよ、ネコ。オモチはフウセンのコップを持ってくれる?」
「良いわよ~」
「じゃあ、みんなでキッチンへ行こうか。オモチはついでに野菜を切ってくれない?」
「任せなさい!腕がなるわ~」
『君、腕なんてないじゃないか』と突っ込みたかったが『守り人』しかいない空間で言っても無駄だろう。とりあえず美味しい水餃子もどきを作って楽しもうじゃないか。
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