第82話
私はUさんと一緒に守護対象になる条件を聞いている。聞いている限りではかなり緩い。オモチの「人間からしたらかなり厳しい」発言は何だったんだろう。そもそも何でこの条件で十二人しか守護対象がいないのか不思議だ。
私の手の上に乗っているオモチが話を続ける。
「最後の条件ね。それはね、育樹との共存よ」
「育樹?ここで出てくるの?」
「えぇ、そうよ~。育樹はあたし達、いいえこの星にとっての生命線なのよ。ヤヌシはこの星にちゃんと芽が出て育っている育樹が何本あると思う?」
「え?そういえば聞いたことなかったな。百本ぐらい?」
「いいえ。十一本よ。これだけしかないの」
「え?でもタワシ達が担当している育樹とかがあるんじゃなかったの?」
「そうね。タワシ達の担当している育樹があるわ~。でも正確にはあれはその場しのぎの育樹ですぐに枯れてしまうの。トウキちゃん。今あなたが担当している育樹は何本元気?」
「え?ええっと・・・。今は二本かな、両方ともまだ芽は出てないけど。でももうすぐ片方は枯れそうなの」
トウキの声はとても悲しそうだ。でも、どういうことだ?意味が良く分からない。
「もしかしてオモチさん。タワシちゃん達が担当している育樹って発芽するけどすぐに枯れてしまうのではないですか?」
「正解!ヘルパーさん、わかってる~!でもちょっとだけ訂正ね。発芽がしない場合の方がほとんどなのよ」
いやいやいや!そうだったの?だからこの場所に育樹の芽が出ることが凄いって言っていたのか。
「オモチ!私が言いたかったのに!」
トウキが文句を言っているが私はそれどころではない。私は不思議に思っていた。あと二百年くらいあれば育樹を増やして地球を救えるのではないかと。あとは我々人間が資源の搾取を控えれば環境は良くなると。
育樹が増えないのならそれは無理な話だ。先生にちゃんと聞いておくべきだった。聞いても教えてもらえなかったかもしれないけど。
「先生、教えてください。今一番育っている育樹の大きさはどれくらいなんですか?」
「それは・・・。マリモのしっぽぐらいくらいです」
「Uさん、だいだいどれくらい?」
「そうね。マリモちゃん、ちょっとテーブルの上に乗ってくれない?そうそう。そして後ろを向いてね。・・・。五センチぐらいかな?」
嘘でしょ?
「そんなに小さいんですか?」
「はい。育樹を植え始めて二年半になりますが一番大きな育樹になります」
なるほど。やっとわかった。
「育っている育樹に近い人間を守護対象にしていたんですね。だから私の庭にも育樹を植える許可を出したんですか」
「・・・。はい。『育樹との共存』など偉そうに言っていますが、情けない話。我々では無理だったんですよ。理由はわかりません。私達、樹の守護者以上に樹に詳しいものはいないと自負しています。ですが無理でした。トウキからここの話を聞いてもしかしたら発芽するのではと淡い期待を込めて許可を出しました」
先生はとても辛そうだ。先生の事だから何とかできないか色々と試したんだろう。そのたびに枯れていく育樹を見てきた。その辛さは計り知れない。
「先生、分かりました。辛いことを思い出させてしまってすみません」
「問題ありません。私達は今も色んな場所に種を植えて守護者に面倒を見させてます。いつかちゃんと育つ場所が見つかると信じて。そうしたらこの場所で発芽しようとしている。元気な状態で発芽するのも珍しいんですよ!」
「だからオモチさんも来たがったのね」
「そうなのよ、ヘルパーさん!もしかしたらあたしもこの星を救う手助けが出来るかもしれないしね~」
私は庭に育樹が育っているから守護対象になったのは分かった。では他の人達は?
「先生、他の守護対象も家の庭に育樹が育っているのですか?」
「他の人間の場合は様々です。木を祀っている人間の住処の近くに育っている育樹もあれば、ものすごく広い場所で一人住んでいる人間の住処の地下に育っている育樹もあります。ただ、どれもこれもほとんど芽が出たばっかりの状態から育っていません」
なるほどな。確かにそれを聞くと我が家の育樹は驚異的なスピードで大きくなっている。
「守護対象の条件は分かりました。先生、今日はここまでにしてもらえませんか?ちょっと情報量が多くて一度に処理しきれません。近い内に砂岩が家に来るのならその時に改めて手伝いの話をするっていうのはどうでしょう?」
「えぇ、大丈夫です。一度ここで区切りましょう」
先生が理解してくれてありがたい。ん?でも待てよ・・・。
「先生、今タワシ達ってどれくらいの育樹を担当しているのですか?」
「もうほとんどゼロですよ。今はここの育樹に専念してもらってます」
「私と会う前だと?」
「ん~。大体十本ぐらいは担当してもらってましたね。植えては枯れを繰り返していたので何とも言えない気持ちになりますよ」
確かに何も収穫がずっとないのはきついだろう。賽の河原の石積みをやっているようなものだ。
「そうですよね。色々と答えてくれてありがとうございます。オモチもありがとうね。Uさん大丈夫ですか?」
手の中のオモチが震えている。喜んでいるのか?
「はい。ちょっと情報量が多くて途中で話を止めてもらって助かりました」
「あれだったら電話で私が所長に報告しましょうか?」
「大丈夫ですよ。任せてください!」
「今日の難しい話はここまでにしましょう。飲み物のおかわりがいる人~?」
ほぼ全員が追加の飲み物を希望したため私とUさんはキッチンへ移動した。その後に雑談を少ししてその日は解散となった。
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