第93話

 今日はヘルパーさんが買い物をしている風景をオモチの力を使って『守り人』達が見ていた。『守り人』達は普段見ることがない人間の街のスーパーを見て興奮している。その後、各々が欲しいものを買ってもらい満足していたみたいだ。楽しんでもらって良かったよ。


 私は春さんが言っていた「お願いがある」という言葉を思い出した。ヘルパーさんが帰ってくるまでに聞いておこうと春さんに声をかけた。


「春さん、ちょっといいですか?」


「えぇ良いわよ!やっぱりすごいわね『守り人』は」


「本当ですよね!話は変わるんですかが、さっき言っていたお願いって何ですか?」


「その話ね。私の娘がね~、やっと車の免許を取ったの」


 この話の流れは嫌な予感がする。


「だから車で我が家に来てタワシ達と戯れたいと?」


「惜しいわね。半分正解!最近ヤヌシくんの家、買い物の量が増えているでしょう?━ちゃんから聞いているわ。だからあの子の運転練習がてらに買い物をさせようかと思っているの」


「いや、いきなりこんな山奥で練習って危ないでしょ?」


 私の記憶が正しければ私の家までの道のりは初心者のドライバー向けではないはずだ。


「ヤヌシちゃん、あなたの記憶だとここまでの道のりは細い道でかなり危ない道だと思う。だけどあれから何年もたっているの。この家に来る最後の道以外は道路もきれいになっていて走りやすいわ」


 そうなのか・・・。たしかに車の通行量が少ない田舎の方が練習になるとは思うけど買い物までしなくても。


「それは知りませんでした。田舎の方が人がいないので練習しやすいというのも分かります。でも買い物はしなくてもいいのでは?確かに買い物の量は私も気になってました。もう一度携帯を買って音声読み上げを使用してネットで購入することも視野に入れていましたが」


「それはダメよ!絶対にダメ!ここに知らない人が来るのは良くないっていうのは分かるでしょう?」


「そうですが、オモチにお願いすれば配達人がここに来る少し前に分かりますから対応できますよ。それに市街からここまでのガソリン代も馬鹿になりませんよ」


 春さんがため息をつく。このため息のつき方は怒っている感じがする。


「旦那から聞いていたけど本当に面倒な性格になったわね。ヤヌシちゃん」


 声のトーンが低くなった。春さん、完全に怒っているな。私は反論しなかった。


「だからもっと早く私はここに来たかったのよ。あなたがこうなる前に。昔のあなたはこんな面倒な考え方はしなかったわ」


 この間、怒られた時と同じようなことを言い出したな。でもそんなことを言われても・・・。ほらトウキ達も震えてるじゃないですか。


「春さん、ちょっと落ち着いてください。みんなが怖がっています」


「あら、ごめんね~。私が言いたいのはもっと他人に甘えなさいってことよ。あなたは今でも十分に甘えていると思っているかもしれないけれど、それはちゃんとお金という対価を払っているから甘えているわけではないわ」


「良い大人が他人に甘えるというのはちょっと・・・」


 普通に気持ち悪いですよ。


「茶化さずに話を聞きなさい。娘は自分の意志でここに来たいと言っているわ。そして買い物もあの子の考え。あなたが申し訳ないと思うのなら娘に対価を上げればいいのよ」


「例えば?」


「そうねぇ。例えばトウキちゃんを抱っこさせてあげるとか」


「絶対にいや!!!」


 今日一の声が出たね、トウキ。そんなに嫌かい。


「冗談よ、トウキちゃん。あなた達が娘を怖がっているのも聞いているわ。この間の事もごめんね。母親として謝るわ」


「ならいいけど。冗談でも言わないで」


「嫌われているわね~、あの娘。ねぇ、私はどう?嫌い?」


「春さん?春さんは別に嫌いじゃないわ」


「聞いた?ヤヌシちゃん!帰ったらあの娘に自慢しよう~。あら話がずれたわね。話を戻すけど、あの娘が良いって言ってるのだから問題ないわ。あとはヤヌシちゃんの心の問題」


 心の問題ね。あまり複雑に考えるなってことかな。はぁ~。


「わかりました。来る前の日に電話してくれればいいですよ。もちろん、安全運転でお願いします」


「ありがとう!!あと、ここでバックの練習とかさせてもいいかしら」


「構いませんよ。家や倉庫にぶつけなければ」


「ちゃんと娘に言っておくわ。事故するなら単独でするようにね」


 もしかしてミカンちゃんって運転が上手くないの?


「初めのうちは━ちゃんについてきてもらおうかしらね。もしくは私かな」


「私は歓迎しますよ。どうせ暇ですから」


 タワシ達も人間と触れ合う機会を増やすべきだと私は考えている。まぁ、もともと不定期でミカンちゃん達が遊びに来てたしね。それが確定で来るだけの話だ。


「そういえばみんな!良いものを持ってきたのよ、ちょっと待っててね~」


 春さんの足音が遠ざかっていく。何を持ってきてくれたんだろう。


「トウキ、春さんは来た時に何か持っていた?」


「そうねぇ。背中に何かつけてたけど今はなかったわ」


 カバンを背負ってたのか。何を入れてきたのか気になるな。少しして足音が戻ってきた。


「はい、これ!みんな専用の椅子よ!どうかしら~」


 春さんが発言するとみんなが私の体から離れていく。


「春さん、良いの?ありがとう!」


「ありがとうございます!私の分まで。タワシ、これはあなたのみたいですよ」


「これが俺のかな?良いな!これに今日選んだものを入れれば完璧だ」


「春さん、ありがと~!大変だったでしょう?みんなに合わせたものを準備するの」


「本当ですよ!忙しいのに・・・。わざわざありがとうございます!」


 みんなの椅子ってどんな椅子だろう。あとで触らせてもらおうかな?春さんも可愛いものが大好きだから本当はみんなと遊びたいはず。今日はお休みなんだから、後で遊んでもらおう。


「良いのよ~。前に来た時に気になっていたからね。私からのプレゼントよ!半分は私の手づくりだからね!」


 トウキ達から椅子の事を聞いていると玄関の方から車の音がする。ヘルパーさんが帰ってきたみたいだ。本格的に昼食の準備をしよう。

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