第134話

 バーベキューの日から二日後。ヘルパーさんの日がやってきた。今日は室内で料理をしようと思っている。外で食事をするのは大好きだけど、たまにやるのが良いんだよね。


 昨日のうちに在庫を確認しながら欲しいものをボイスレコーダーに録音した。消耗品は問題ないが冷凍品の消耗が激しい。ちょっとUさんにお願いするのを躊躇するレベルだ。無理そうだったら嗜好品を減らそう。


 砂岩が帰ってからブラシはずっと私の左腕にしがみついていた。みんなと一緒に食事を楽しんでいるみたいだ。私も色々と食べ物を出してあげたいが冷凍弁当以外の冷凍品の在庫が怪しい。昨日は冷凍のお好み焼きを出してあげたらとても喜んでいた。みんなで分けるとあまり量がなかったので申し訳ない気がしたが・・・。


 問題は今日のお昼ご飯。最近のヘルパーさんの日は私の料理をみんなが楽しみにしている。目の悪い私のレパートリーなんてたかが知れている。何か良い案はない物かな~。


「ヤヌシ、今日のお昼は何を作るの?」


 私が食後のコーヒーを飲んでいるとトウキが質問してくる。


「まだ決めてないんだよね~。今日はここで調理しようと思っているんだけど思いつかないんだよ」


「え~。何か作ろうよ!この間の餃子は?」


「私一人じゃ無理だよ。今日はUさんが来てくれるけどそれは仕事でだ。あまり頼ることはできないよ」


 最近はUさんに頼りすぎて掃除の時間が減っている気がする。あまりUさんの仕事の邪魔をしてはいけない。


「トウキ。先生の言っていたことを忘れたの?」


「・・・。分かってるわよオモチ」


 迷惑をかけるなって話だっけ?別に迷惑だとは思ってないけど。好きでやってるんだから。そういえば・・・。


「私は君達に魚を出した事あったっけ?」


「魚?海に泳いでいるあの~?」


「なんだそれ?」


 オモチは知っているがマリモは知らない。水の『守り人』だから知っていたのかな?


「あれって美味しいの~?どう見ても美味しそうには見えないんだけど」


「僕は好きだよ。でもどうしようかな~」


「なにが?」


 黙っていたブラシが話に参加してきた。ブラシは今日で帰る予定だ。


「お寿司っていう料理があるんだけどね。これは私の好物でもあるんだけど、買って来てもらうにちょっと無理があるかな~」


「食べてみたい」


 ブラシ、即答だね。君は今日で帰っちゃうから食べたいよね。


「そうか~。ダメ元で頼んでみるか」


「本当?」


「本当だとも。ダメだったら諦めよう。ブラシが来れる次の時に振舞うよ」


「分かった」


「お寿司するのなら豚汁でも作ろうかな?いや豚汁うどんにしよう。これならUさんに買い物に行ってもらった後でも間に合うか」


「買って来てもらえると良いね!!」


 トウキがテーブルから私の右肩までよじ登ってきて顔にしがみいた。抱き着いていると言った方が良いのかもしれない。小さくなれるようになってからはトウキは肩によじ登ることが増えた。たまにタワシと喧嘩している。


「ヤヌシ、お好み焼き!!」


 ブラシの私にしがみつく力が強くなる。子供の頃に流行った雑巾絞りをされているみたいで痛い。


「ブラシ!分かってるから力を緩めてくれ!」


「ご、ごめん」


「良いんだ。昨日はあまり食べれなかったものね。それは優先して買って来てもらうよ」


「ありがとう!!」


 私達が食べ物の話で雑談していると玄関の方から車の音がする。


「来たみたいだね。玄関に移動しよう」


 私は『守り人』を体にくっつけて玄関に移動した。するとドアの向こうから所長さんとヘルパーさんの声が聞こえる。


「ヤヌシ君、来たよ~!」


「所長、チャイムを押してください!」


「良いじゃないか~。僕が小さい頃はここまで自転車で来て、こうやって声をかけたものだよ」


「私の子供の頃には考えられませんね。かなりの距離があるのに」


 チャイムは鳴っていないが私はドアを開けた。


「おはようございます。ヘルパーさん」


「おはようございます。━━さん、今日はどうですか?」


「ダメ見たいです。今日も色々とよろしくお願いします」


「おはよう、ヤヌシ君。報告に来たよ!」


「おはようございます。所長さん。報告ですか?」


「この間のダイヤが売れたんだって。それもあるけど色々と報告することが多くてね。直接伝えにやってきたのさ」


「仕事は大丈夫なんですか?」


「今、月末だろ?うちの会社は月始から中旬が忙しいんだ。いまなら半休とっても大丈夫なんだよ」


 怪しいな。春さんに内緒で来たわけじゃないよね?


「・・・本当ですか?分かりました。わざわざありがとうございます」


 ヘルパーさんが私と所長さんの会話が終わったと判断して話かけてくる。


「では、まずボイスレコーダーをいただけますか?それとお肉や魚関係で追加があれば言ってください」


 カチッ、バサッという音がする。たぶんペンとメモ紙の音だろう。


「分かりました。最初にお聞きしたいのですがお寿司って買って来れますか?」


「お寿司ですか?タワシちゃん達の食べる量を考えるとちょっと難しいかもしれません」


「いいえ、ある程度で良いんですよ。あとで言うつもりでしたが豚バラを買って来てもらって豚汁うどんを作るつもりなんです。どっちかと言うとお寿司はおまけみたいな感じでお試しで買って来て欲しいんです」


「食べれるか分からないからですか?」


「はい、そうです」


「なら大丈夫だと思います」


 本当ですか?どっちかというと問題は冷凍品ですよ?


「本当ですか?先に冷凍品を聞いてもらってから判断した方が良いと思いますよ」


「そっちが大量なんですね」


「はい。まずは・・・」


 ヘルパーさんがボイスレコーダーの内容を聞いてメモし始めた。ヘルパーさんがすべて聞き終わった後どういう反応をするのか聞くのが怖い。

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