第15話
それではトウキに質問を始めていこうを思う。
トウキにする質問は「はい」「いいえ」「わからない」で答えられるようにしなければならない。
トウキに聞きたいことは山ほどあるが、質問するのが難しく感じるのは私だけなんだろうか。私の頭が悪いだけかもしれない。
でもまさかイマジナリーフレンド的な存在とコミュニケーションが取れるとは思っていなかった。これが普通なのだろうか。
こういう時にインターネットで調べたくても調べられない事がとても歯がゆい。
私はスマホとパソコン両方とも持っていない。
事故にあう前は普通にスマホもパソコンも持っていた。だが退院して帰ってきてからすぐに捨ててしまった。これからの生活には要らないと思ったから。
もちろん視覚障害者にとってスマホやパソコンが便利なのは訓練で聞いていた。音声読み上げソフトやアプリを使えば生活の質を上げられると。
私以外の視覚障害者の方の生活の質を上げてもらおう。
話が脱線してしまった。
ではトウキに質問をしていこう。
「じゃあ、トウキ。何個か質問をしていくからよろしくね」
足が2回軽く叩かれる。
「ありがとう。もしかしたら、今からする質問で君の気分を害するかもしれない。先に謝っておく。ごめんね。まず初めに聞きたいのは君たちは私の想像の産物、いや言い方が難しいか?私の想像から生まれた物なのかな?」
足が1回軽く叩かれる。
よかった~違うのか!とは素直に思えない・・・。でもそういうことにしとこう!
じゃないと今までのタワシとのやりとり、トウキがしがみついている右足の重さが嘘ということになる。
でも私の想像の産物ではないとなると君たちは動物なのか?
「じゃあ次の質問。タワシとトウキは動物、生き物なの?」
足が1回軽く叩かれる。
そうか・・・
人間ではなく動物でもない、というか生き物ですらない。そして私の想像でもない。
はぁ。どうしよう。頭が痛くなってきた。
「トウキ、タワシは私の言っていることは分かっているの?」
足が1回軽く叩かれる。
やっぱりか。もしかしたら、タワシはまだ幼いのかもしれない。
トウキには私とタワシの橋渡し役をお願いしよう。
「ありがとう、トウキ。あとはそうだな。君たちにはまだ仲間はいるの?」
足が2回軽く叩かれる。
あぁ~そうか・・・
それはちょっと困ったな。これは朝から少し思っていたことだ。まだ仲間がいるのではないかと。これ以上、体にくっつかれたら身動き取れなくなるぞ。
「最後に。トウキは今日の朝に出したご飯は美味しかった?」
足が2回軽く叩かれる。
「それは良かった。君たちは冷凍フルーツが好きなんだね。もしかして、タワシから食べ物のことを聞いてうちにやってきたの?」
足が2回軽く叩かれる。しかし、叩き方がかなり弱い。
もしかして恥ずかしがってるのかな。
「分かった。とりあえず、今日はこれぐらいにしておこう。また明日続きをやるけど良いかな?」
足が2回軽く叩かれる。
「ありがとう」
トウキを触ろうとする。するとトウキから私の手を触ってきた。
とても触り心地が良い。
なぜかタワシが私の顔を触っている。
トウキばかり構っているからさみしいのかな?
本当はどうやって家の中に入ってきたのか聞きたかったが、疲れた。
普段頭を使わないから疲労が凄い。また次の機会に聞こう。
私はイスから立ちあがりキッチンへ向かった。
質問は少なかったが驚いたり考えている時間が長かったな。
気づけば先ほど12時の時報が鳴っていた。お昼ご飯を作ろう。
そういえば・・・
「トウキ。君たちはお昼ご飯は食べないの?」
足が2回軽く叩かれる。
なるほど。やっぱり食べる習慣がないんだな。
「やっぱりそうか。ありがとう。」
では気兼ねなく私はお昼を食べるとしよう。
今日のお昼は冷凍炒飯とカップスープ。手軽でおいしいのは素晴らしい。
いつも通り食後にコーヒーとおやつを食べる。
おやつは栗ようかん。
昨日、バターケーキをタワシにあげたからおやつに興味を持つかと思ったけど余計な心配だったようだ。
ただ、タワシは肩の上で少し振動?震えていたのかな?
全く興味がないようではないみたいだ。
午後は花壇と家庭菜園に水をやりに行ったり、家の掃除をできる範囲で行った。
ヘルパーさんが来てくれるとはいえ、自分でできることはなるべく自分でやりたい。
確かに目はほとんど見えなくなった。でも体は元気なのだ。
体を動かすという意味でも掃除はとても適切であると思っている。
掃除をしている最中に気づいたらトウキの重さが気にならなくなった。
もしかして軽くなった?
「トウキ。もしかして、もしかしてだけれど自分の重さを変えれるの?」
足が2回軽く叩かれる。
驚きすぎて言葉が出なかった。普通、そんなことできるわけない。
常識で考えてありえないだろう。
もういいや、素直にトウキを褒めておこう。
「そうか。トウキは凄いんだな」
少し足をつかむ力が強くなった気がする。
何も考えたくない私はキッチンへ移動し、無心で夕食の準備を始めた。
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