第394話 変形
『愛おしいアメジスト……』
ジャニスティの思いすべてが、見透かされているように。囁いたベリルは頬を染め愛娘への想いを語る。
『ジャニスティさんの言う通りですわ。私は成長したアメジストと顔を合わせることも会話をしたこともないのです。本当は抱きしめたい、美しい栗色の髪を撫でて梳いてあげたい。巻いている髪はちょっぴり私に似ていて、嬉しくなったりもするの。そして白く柔らかな頬にはおやすみのキスを――』
「ベリル様……」
『うふふ、これは私の叶わぬ願い。いつかはと……あ、お話が逸れてしまってごめんなさいね』
「いえ、そのようなこと」
彼が何かを悩み苦しむのを感じたベリルはその心が軽くなるようにと愛娘へ抱く想いを話し、笑う。おかげで彼の顔も少しだけ柔和になった。
『私はあの日、此処であの子が楽しそうに通路を歩く姿を傍に感じたことで、抑制され閉じ込められていた力が開放された気がして。今は、力が戻り始めているようにさえ思うのです』
「なるほど。肉親であり、また唯一ベルメルシアの血族であるお嬢様との間接的な出会いが、貴女の力を呼び戻したのですね」
「そう考えています。でも……」
彼女は少し考え込むように目線を下に向け急に、黙りこくる。ジャニスティは動じることなくただただ、次の言葉を待っていた。
それから体感では数分経ったと思える、短くも長い時間。
再び、ベリルの声が沈黙を破る。
『ジャニスティさん、貴方になら言ってもいいかな……そう思えました』
「え、はい? 私などでよろしければ、何なりと」
クスクスと笑うベリルは素敵な笑顔で彼にこう言う。
『話を止め考えている間も、気を消してゆっくりと待って下さる貴方の思いやりに、私はとても感激しています』
「何を仰いますか。当たり前のことです」
褒められているようなくすぐったい感覚にジャニスティは少しだけ恥ずかしそうにしつつも表情は変えず、応える。その姿勢を確認したベリルはすべてを決心したのか?
少しずつ、話し始める。
『正確には私の心……つまり精神ですが、身体の動きのようにすべてが停止し、眠っていたというわけではありません。微弱ですが、自身の持つ魔力を使い光を形に変化させ、娘に会いに行ったことがあります』
「そのようなお力が……しかし、お嬢様は」
『もちろん、気付いていません。それでも私が知り感じたことはありますし、
ベリルは少しだけ悲しそうに眉を下げ、心臓に両手を置いた。
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