第344話 守護


 この日の夕方、愛娘アメジストへ真実を打ち明けた父オニキスが“ベリルの永眠”についても語った話を同じように、ジャニスティにも話す。


 その中でとても重要な話題であったのはベリル出産後の状況とその直後、スピナがどのように関わろうとしてきたのかということについて。

 同居を懇願したスピナの思いに応えたベリルの計らいでベルメルシア家の屋敷内に部屋を持った彼女。いくら周囲から『姉妹のようだ』と仲が良いと言われていたにせよベリルがいなくなった後の行動が不可解である。


 しかし、そもそもなぜ?

 部外者であるはずのスピナが現在の立場になれたのか。


 これまでベルメルシア家が抱える過去の内情を知る機会もなかったジャニスティは“継母スピナ”が屋敷の者たちへ向ける威圧的な態度、そして義理とはいえ娘であるアメジストへ対する日々の言動に不快と不信感を募らせていた。


 その気持ちも知るオニキスは十六年前の夜に起こったあの哀しき出来事を、簡潔明瞭に話す。


 その中で語られた――スピナとフォルのやり取り。


 ジャニスティが初めて知る、真実である。


 強い魔力を持ち屋敷を護ってきたベルメルシア家専属の執事であるフォルの言葉はスピナを制御することが出来る。彼女にとっては唯一『敵わない』と思わせられる相手であった。



――『仮に、もし本当に、ベリル御嬢様が亡くなったのではなく、生きているというのであれば、ベルメルシア家の血族と、その認められ関わる者だけが入ることを許された――しかるべき場所で』


 彼は如何なる時もその心を乱すことは、無い。


 あの夜、息を引き取ったベリルを『生きている』とオニキスへ囁き、自分の目の届く場所に置こうとしたスピナへ執事フォルが言った言葉である。



「フォルは、本当に凄い人物だ。スピナの話を信じるも信じないもなく、ただ我があるじを護る……命ある限りベルメルシア家を護るとの信念を持ち、異議を唱えた」


「……」

(冷静、そうだ。護るとは……言い合い、争うばかりではない)

 言葉にならぬ様々な感情がジャニスティの中で、交錯する。



「早くに両親を亡くしていたベリルにとっては父代わりであり、またアメジストにとっては優しい祖父のような存在だ。そして屋敷のことを誰よりも熟知し、ベルメルシア家を愛してくれる全ての者たちを、敬愛している」


「はい、フォル様は……全てがかがみのような御方だと、そう思います」


 ジャニスティの言葉に奥で聞いていたエデも深く、頷いていた。

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