第101話 表現


 しかしその様子は周囲にとって当然、驚きの出来事であった。


「おぅっと……クォーツ! ダメだろ〜?」


 ガシッ!!


「んーあ〜、お兄様ぁー」


 焦りながらも優しく止める、ジャニスティ。その意味を理解出来ないクォーツは「どぉしてですのぉ〜」と、ジタバタ抵抗する。それでもアメジストの手を握り、離そうとしない。


「あ……えっとぉ。ジャニス?」


 頬を桃色に染めたアメジストは「良いのよ」と言いながらその白く小さな手をジャニスティに、預ける。


 クォーツの行動は想定外……まさかの出来事に慌てふためくジャニスティは急いで抱き上げたクォーツの顔を、困り顔で見つめた。するとその可愛いくりっと透き通るようなブラウンカラーの瞳と、目が合う。


 クォーツは「えっへへ~」と言い、ニコニコ♪


 ご満悦な“妹”の姿にジャニスティの表情はフッと緩み、肩の力が抜けていく。


(昔から「レヴシャルメ種族の笑顔は心読めず、憎めない」とは聞いていたが)


――本当に何もかも、許してしまいそうになる。


「やはり……謎が多い、君は。なぁ、クォーツ」

 誰にも聞こえない程に小さな声でジャニスティは、呟く。


「ねー、お兄様ぁ~ッ♪」


 暢気のんきなクォーツは「抱っこ大好き~」と言いながら今度はジャニスティに腕をギュッと巻きつけ、その首筋に軽くキスをする。その柔らかく温かい魔力はアメジストの時と同じように彼の身体に、流れ込んでいく。


――幸せを届けるクォーツのキスは、天使そのものであった。


「あぁ、クォーツ……分かったから」

(全く、始まりの日からこれでは、困ったものだ)


 嬉し楽しそうにフフッと一瞬笑い、我に返ったジャニスティは「ふぅ~」と大きく息を吐き心を落ち着けるとそれからアメジストへ向けて。次に部屋へ集まる皆に向かってお辞儀をしながら、話し始めた。


「申し訳ありません、アメジストお嬢様……その」


 結婚出来る歳とはいえまだ十六歳の、アメジスト。しかも大切に育てられてきた御令嬢である。いくら性別を持たないレヴシャルメ種族の者とはいえジャニスティは、アメジストにとって初めてとなる“キス”をクォーツが奪ってしまったと考え申し訳なく思い、言葉に詰まる。


――しかし、アメジストの反応は意外なものであった。


「謝らないで、ジャニス。先程お父様がおっしゃっていたお話で、クォーツはわたくしの妹となったのです! こんなに可愛らしい妹からの素敵な愛情表現を嫌がる理由など……ありませんわ」


 そう言うとクォーツと、笑い合った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る