第100話 口付


 ザワザワ!?


「おはようございます、旦那様」


 他のお手伝いたちがざわつく中、全てを知るジャニスティは涼しい顔で挨拶をする。


 そして――。


「お……お父様」

(どうして、クォーツと一緒に!?)


 なぜか自分の助けたレヴシャルメ種族の子可愛いクォーツが父オニキスといることに、一驚を喫する。


「おぉ! 可愛いアメジスト。おはよう、今日は素敵なお話があるのだよ」


 微笑むオニキスもまた、クォーツのこれからを関知している一人。


「おはようございます、お父様……」

 その光景にアメジストが動揺するのも、無理のない話だ。


 昨日、昼食前のジャニスティの部屋にて。本館へ無事に戻れたアメジストはその後――クォーツがどのような時間を過ごしていたのかを、知らない。


「あら? 何その子」


――ハッ!!

(お母様……だわ)


 その凍るような声に背筋がゾワッとする。


 いつの間にか戻っていたスピナは腕を組み見下すようにクォーツの事を、見ていた。


「やぁ、スピナ。朝から騒がせたね」

「い~え~構いませんわ、ア・ナ・タ」


 オニキスをうやまう心など微塵みじんも感じないスピナの、口調や態度。しかしそれを気にすることなくオニキスは「ぜひ皆にも聞いてほしい」と、話し始める。


「こちら、ジャニスティの妹さんだ。しばらくの間、ベルメルシア家で預かることになった」


 ざわざわ!?


「なっ?! そんなの聞いてな……」

 驚愕するスピナは批判的な言葉を発するが、しかし。オニキスはスッと手のひらを出し、その声を静止する。


「この屋敷にいる間はアメジスト同様、私の娘として暮らしてもらう。皆、よろしく」


 そして視線を落とし手を繋ぐクォーツに、目配せ。


(あっ! ハイッ♪)


「お初にお目にかかります。わたくし、ジャニスティの妹クォーツと申します。本日は皆様にお会いする事ができ、光栄に存じます。以後、末永くお見知りおき下さると幸いです」


 あまりにも丁寧で美しい挨拶に見惚れるお手伝いたちの中、待ちに待っていたアメジストが口を開く。


「ベルメルシア=アメジストと申します。クォーツ、お会い出来て嬉しいわ」


 クォーツの目線に合わせ、微笑んだ瞬間!


「お姉様!!」

(ありがとう! 大好き)


「んッ?!」


――ぶわぁ~!

 目の前が一瞬、白い花の咲く世界になる。


『夢想』――夢に見た心、想いが視える世界……。


 それはレヴシャルメの魅せた、夢の魔法だろうか?


 温かく柔らかなクォーツのくちびるはアメジストの唇に触れ、熱い想いが力となり身体中へ、流れ込んでくるようであった。

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