第102話 紹介


「お嬢様……ありがとうございます」


 感謝の意を表しながら挨拶をするジャニスティの姿は部屋にいた者たちの「微笑ましい」と言わんばかりの笑いを、誘う。

 滅多に見ることのない戸惑った彼の表情にまるで珍しい生きものでも見たかのように、驚く者もいた。


「えへ〜♪」


 クォーツの幸せそうな顔と無邪気さに加えアメジストとの出来事によって、食事前の慌ただしい部屋には有り得ないほんわかとした雰囲気が、漂い始める。


「なるほど、愛情とは様々だ」

 面白可笑しい、しかし見守るようなオニキスの表情と優しい声が場の空気を穏やかに、安定させた。


 それに応えるようにジャニスティは「コホンッ!」と一度咳払いをすると再び、口を開く。


「失礼。ご覧の通り妹はまだ幼く、突然何をするか分かりません。ご迷惑をおかけすることも多々あるかと存じますが、どうか皆様。クォーツの事、温かい目で見守って下されば、幸いでございます」


 そしてクォーツを自分の右隣に降ろすとジャニスティは部屋の皆に向かって「よろしくお願いいたします」と、一礼。


「……」


 しばらくシーンと静まり返る、部屋。


 いつの間にか開いていた大きめの窓からは緩やかな時間トキの風が差し込む光と一緒にキラキラと、吹く。


「うわぁ!! キレイです」

 その光に感動したクォーツは思わず窓際へ、走る。


「はは、嬉しいのかい? クォーツ」

「ハイッ♪ きらきらぁ」


 その姿に笑いながらゆっくりと傍へ寄り添うオニキスは新しく迎えた娘の美しい髪を撫で一緒に、見える風景に目を細める。


――君なら、逢えるかもしれないな。


「食事の後に、お庭へ行ってみると良い」

「いいのですか?! わぁ〜い!!」


 吹いたそよ風に揺れたカーテンに乗る小鳥の声はまるで音色のように耳に届いたクォーツは幸せで、頬を染める。


 するとどこからともなく温かい歓迎の声がちらほらと聞こえ、お手伝いたちからは拍手が起こった。


 パチパチパチ――!!


「クォーツお嬢様、ようこそ!」

「可愛い……お兄様と同じ美しい艶髪だわぁ」

「新たなお嬢様。いや、お姫様のようですね」


 皆の笑顔を見て楽しい雰囲気だと理解できたクォーツは満面の笑みを浮かべ恥ずかしそうに、御礼を言う。


「はぅ……ありがとうございましゅ」


 クォーツはアメジストやジャニスティに触れると自分の意思とは関係なく無意識に、魔力が出てしまう。


――それは未知なる“レヴシャルメ種族”の力。


(出来るだけ力を見せぬよう、クォーツに言っておかなくては)

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