第373話 課題


(私も何か、お父様たちのお役に立ちたい)

「これからは、護ってもらうばかりではだめ」


 魔力が開花したとはいえ必要時に何もできないのでは意味がない。そのためアメジストが目指す今後の課題はその使い方を学ぶ事であろう。


「もっと、お勉強しなくちゃ」

(皆様に必要とされる存在だった、ベリルお母様のように)


 ぱふっ!!


「んあぁッ?!」

「おっねぇさまぁ~♪」


 浴室を出て鏡台へ向かっていた二人。

 その時に心の声をぽつりと呟いてしまったアメジストの言葉を聞いたクォーツは後ろから突然飛びつく。驚いた彼女の桃紫色の大きな瞳はまるで美しい宝石アメジストのようにキラリと煌めき、力を増す。


 そしてすぐに微笑み「なぁに?」と可愛い妹を見つめた。すると両手をいっぱいに広げたクォーツは満面の笑みで答える。


「わたしもお勉強するの~」

「えっ?」


 ワクワクと体を動かすクォーツを一旦落ち着かせて髪を梳き乾かし始めた。その間も頬を染め楽しそうにする妹にアメジストはふと、尋ねてみる。


「クォーツは、お勉強が好き?」

「うににぃ~! すきすきですのぉ♪」


「うふふ、そうなのね」

(嬉しそう……そっか、そうね。今日も馬車の中で、学んだことをたくさん話して教えてくれたわ)


「ねぇお姉様! 今日は、えほーんもお勉強できるです?」

「えぇ、そうね。とても綺麗な絵と素敵な世界が広がっているわ」


 絵本を見て、読むこと。

 今のクォーツにとって人族の言葉を覚えるのには効果的でそれが勉強と言えばそうかもしれないなと彼女は、頷く。


「さぁ出来た。クォーツ、髪はこれでどうかしら?」

「うぅ~♪ 髪、えっと、か、かー……“可愛い”ですの!」

「そう? 良かった。私も髪を梳いたら行くから座って待っててね」

「はぁーい!!」


 元気良くそう答えるとクォーツはまた先程の部屋へと戻りそっと、オルゴールに触れた。ふたを開け鳴り始めた優しい音色と中の細いピンが櫛の歯を弾く動きを見つめ静かになったかと思うと、どうやらうっとりしているようだ。


(本当に、素直で良い子)

 アメジストは可愛くて仕方がない妹クォーツへの思いを膨らませながら、これから先もずっとこの穏やかな暮らしが続きますようにと、心の中で呟いた。


 そしてこれからはベルメルシア家にいる屋敷の者たちに加え街中の未来を支えていけるように――これまで以上に自分を高める努力をし魔力を使えるようにしていきたいと鏡に映る自分の弱々しい顔にぐっと力を入れゆっくり、瞬きをした。

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