第374話 絵本


 ♪~♫♩~……。


 鏡越しに見えるご機嫌なクォーツが聴き入っているオルゴールの音色はなぜかいつもよりも、彼女の心にホッと安心感を与えてくる。


「可愛いクォーツ。何があっても……あなたは私が守ります」


 ――そして、いつかは。


「少しでもジャニスの力に……いいえ」


(いつかは彼を護れるくらいに、私も強くなりたい)


“ぎゅ”


 この瞬間、握った手を心臓に当てトクトクと打つ自分の鼓動を感じながら、アメジストはこれから自身のやるべき事を見据えさらに考えられる困難をも覚悟。


 その身は引き締まる思いであった。



「クォーツ、そろそろ絵本を読みましょう」

「んなゅ! わぁーい」


 アメジストは小さな妹をベッドへと寝かせ隣に座り、読み聞かせる。


 初めての『絵本』を目にしたクォーツは興奮気味に頬を桃色に染め「ふぅわー……ステキですのぉ」と潤んだ瞳でワクワクと描かれた絵を、眺めた。


 そうして眠りにつくまでの間ずっと枕元で優しく物語を語っていたアメジストの声は川のせせらぎのように滑らかで優しく、まるで子守歌のように……クォーツはすぅすぅと、寝息をたて始めたのだった。


「おやすみ、可愛いクォーツ……良い夢を」



【アメジストが読んだ絵本】


『太陽のひかりに導かれて』


 あたたかな太陽のひかりが、

 きょうも森のどうぶつたちを導く。

 あかるい場所へ、

 実のなる木々のもとへ。


 あたたかな太陽のひかりが、

 きょうも湖にすむ魚たちを導いて。

 かがやく場所へ、

 綺麗な水の溢れる所へ。


 あたたかな太陽のひかりを、

 きょうも浴びておおきくなる草花。

 可愛い花びらと、

 ゆらゆら緑葉がゆれて。


 太陽のひかりはまっすぐに、

 美しきリボンのようにひるがえる。

 もん白ちょうと、

 ふわふわと舞い遊んで。


 森のどうぶつたちはよろこび、

 木の実を集めてはなしをする。

 湖の魚たちは水をけり上がり、

 楽しいと跳ねておよいでいく。


 聖なるだいちに広がる草原は、

 いのちを生みだす風とともに、

 さらさら〜さらさら〜優しく、

 その純白の花と蝶の煌めきに、


 こたえて抱きしめてくれる

  あたたかく包むひかりの中


 それは太陽より強く優しい

 それは聖なる、白夢想の世界。



 眠るクォーツの髪を撫でながらアメジストは絵本を読み終える。そして自身も幼い頃にこうして一度だけお手伝いのラルミに読んでもらったことがある記憶を思い出し戸惑った。


「とても小さい時……この視線。もしかして私が、赤ちゃんの頃のことかしら?」


 目を閉じて再度、彼女は呼び起こすのだった。

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