第415話 風格


「……そんな」

(想像していた以上の、衝撃の内容だ)


 彼は、愕然とした。


 会合時に言いづらいとしながらも現当主オニキスへ『ベルメルシアの血族だけが持つ力を――ベリル様の“命”をスピナは奪うつもりだったのではないか』と伝えた話を、思い起こす。


 しかしそれはあくまでも彼の中で“自分は冷酷だ”という考えから、推測したものであった。


 そのためか? 一通りの話を聞き終えたジャニスティは考えていなかったわけではない真実にも関わらず頭の中は混乱し、言葉に詰まる。


『起こってしまった出来事を消すことは出来ません、過ぎ去った時間を取り戻すことも不可能です。ですが、お姉様……いえ、スピナ様の本当のお姿は、相手の気持ちを一番に考え重んじる……そんな心優しい御方なのです』


「それはベリル様。貴女様のお心が広く、何者に対してもお優しいからでしょう」


『いいえ、スピナ様は本当に素敵な方でしたわ』


「学生時代……出会った頃はそうであったかもしれませんが、しかし! 旦那様は心の隙間を狙われ、アメジストお嬢様はずっと怯えて過ごされてきた。そして現に、貴女様のお命は――ッ」


 興奮気味に意見していた彼はベリルが眉尻を下げ悲し気な表情で首を振る姿を見た瞬間ハッと、我に返る。最初にベリルから自身のこういう部分を指摘されていたのだ、心を乱してはならなかったと解り、「申し訳ありません」と謝罪の言葉を口にし彼女から、目を逸らした。


『いいえ、あなたのお怒りはごもっともですわ』


 そう微笑みながら話すベリルはすぅっと、隠し扉から出る方向へと数歩進み立ち止まる。


 しばしの沈黙。

 それは居心地の悪いものではなく先程までの興奮状態が嘘のように不思議と落ち着いた感情になっていった。その視線の先に立つベルメルシア家前当主の凛とした風格を見つめ、身の引き締まる思いだ。


 そんな彼の心にはふわっと、アメジストの姿が映し出される。


(お嬢様は、悩んでいないだろうか)

 ここ数日で様々な出来事が二人の間で起こった。

 アメジストの事を気にかけつつ彼自身もやるべき任務に追われゆっくりと話せていないと、感じる。


「あっ」

 ジャニスティは突然思い出したかのように胸ポケットにしまっていた懐中時計で現在の時刻を確認し深い溜息をつくと俯いていた顔を、上げた。


「ベリル様……その」


『えぇ、そろそろお時間のようですね』


 ジャニスティの声に頷き返事をするベリルは体の向きを少し変え横目で彼を見ると、笑んだ。

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