第332話 報告


「例の事件があった場所に差し掛かった時に出た、クォーツの症状の件か。おおよそはエデから聞いているが」


「はい、しかしその件はもう少し調査してからご報告を――」


 その言葉に「うむ、頼んだ」と頷いたオニキスはまた、聞く姿勢に戻る。


「クォーツの件を報告しようと、私は急いでオニキス――貴方の書斎へ向かっていました。しかし時間が迫っていましたので、悩んだ私はいつも使用しない通路――裏中庭から近道をしようとした時です。そこに、スピナ奥様がいらっしゃるのに気が付きました」


「スピナ……か。なるほど」


「はい」

(もしも、既にエデやオニキスが全てを把握し、知っていたとしても。知らなかった私にとっては言葉に詰まる程に衝撃を受けた、最悪の光景だった)


――オニキスへ見たままの全てを話そう。そして今こそ、真実を問うべきだ。


 ジャニスティが裏中庭で感じた思いはあまりにも強く、怒りにも似た私情を挟めてしまいそうになる。それでは確実な状況説明が出来ないといつも通りの自分で感情を表へと出さぬよう細心の注意を払いながら、言葉を選んでいた。


「奥様はそこで、お一人ではなくある人物と会っておられました」

「ん? その人物に問題があったということか」


「そうですが……その、厄介なことに。奥様はその者と――逢引をなさっておられたようです」


「ほぅ……こともあろうに屋敷の中でとは。まさかスピナがそこまで堕ちていたとはね。しかしそれは、警備的にも大変困った話だが」


 驚きや悲しみよりもオニキスの表情は呆れた様子であった。そして続きを話すようジャニスティへと苦笑いを、浮かべる。


「その者が屋敷へと侵入したのは、本日が初めてかと思われます」

「うむ、そうか。しかし、なぜそう思う?」


 黙って二人の会話を聞いているエデの顔色を一瞬だけ確認しジャニスティはそのスピナが“逢引していた相手”の名を、告げる。


「その理由ですが……その人物は、隣街から来たという本日オニキスが顔を合わせた商談相手――カオメド=オグディア、という者だったからです」


「なッ――……それはさすがに予想していなかったな。驚き……いや、震駭しんがいする程の話だよ」


 そう言うと手で口を抑え言葉を失ったオニキスはしばらく、沈黙する。


「坊ちゃまは奥様と彼に気付き、自身の気配を消した状態で身を潜めた。ようするに奥様とカオメド様を見張っていた、ということですかな」


 その間にエデがジャニスティへと声をかけ、尋ねた。

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