第22話 芽生


――「命に代えても貴女あなた様の事は必ず、このジャニスがお護り致します」


 昨夜大雨の中で、そう言ったジャニスティの言葉が、アメジストの心で温かく光っていた。


「えぇ、ジャニス。私もあなたが困っていたら助けたい……そして」


――守りたい。


 そう呟いた彼女の中で、何かが芽生える。


 今までに感じた事のない胸を締めつけるような感情と切ない想い。相反して心の中に、美しく咲く花を大切にでるような、温かく穏やかな気持ちになった。



 そしてまたスプーンに一口分の魔水をすくい、毎回同じように下唇に触れると口を開けるよう促す。


 ジャニスティは復元魔法で力を開放し過ぎたのか? サンヴァル種族しか持たない尖る牙が姿を現していた。彼はこの秘密にしてきた本当の正体を、アメジストに知られたくなかったのだ。


 ゆっくりと飲ませる彼女の手が、ふと止まる。アメジストはその美しい瞳を潤ませると、キラキラとした目で彼の顔を見つめた。


(頑張るのよ! 私なら出来る)


 それからすぐに先程までとは違う固く厳しい表情になる。そして優しくのんびりとしたトーンで、声をかけた。


「ジャニス、魔水をすくいすぎてこぼしてしまいそうなの。少し口を閉じてくれるかしら?」


 回復へ向かわないジャニスティの身体。そして気力・魔力ともに変わらず弱っていく。そんな中で信頼するアメジストからの声は、判断能力の緩い彼に考える力を無くさせ、甘やかす。


(ジャニス、これできっと元気になって!!)


「はぅあーん?!」


 近くで全てを見ているレヴの子が、心配そうに声をかける。しかしアメジストは動じる事はなく、その子に笑顔を向け応えると、決意の行動を実行に移した。


 そしてジャニスティは彼女に言われる通りに、口をゆっくりと閉じていった。


――うぅ、痛ッ!!


「は、これ、は……な、にを? ア、メジスト……様ッ?!」


「大丈夫、あなたはすぐに元気になるわ」


『アァァ!!!! うぅーぐあぁ!!』



 ジャニスティは苦しくもだえるように声を出し、広いダブルベッドの上を左右に転がり落ちそうにもなっていた。


 それを必死で抱きしめ止めるアメジスト。一体彼の身体に何をしたのか?



 血を求める種族だと分かり、考え思いついてしまった。アメジストは口を閉じる瞬間に人差し指を忍ばせ、ジャニスの尖る牙へ思いっきり押し付けたのだ。


――鮮度の高い血を……。


 そうすれば出血したばかりの新鮮な血をあげられると考え、きっと回復するのではないかと思ったのである。

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