第58話 哀憐
アメジストに向けられる皆からの温かい視線や雰囲気が、継母スピナの持つ敵意を掻き立てる。何故そこまでアメジストの事を忌み嫌うのか、皮肉な言葉は続く。
「そう~、それは偉い偉い。全員覚えているなんて! さぁ~すがベルメルシア家のお嬢様、
パチ、パチ、パチとゆっくり手を叩きながら褒めるような口調で笑っているスピナであったが目だけは冷たく、無表情だ。
(そんな身の回りの世話をするだけの者たちを構っていられるものですか! 名前など覚えているわけないじゃないの)
「もうよしなさい、スピナ」
その時、
「なっ! 何がですの?
いつもであれば干渉する事なく静観している夫に止めに入られ驚き、スピナはすぐに引いた。
「厳しさゆえの、そう思いこれまで見守ってきたんだが。スピナ、君はあまりにも言葉が過ぎる、今後は慎んで行動しなさい」
「あ、あなたぁ~どうしてそんな事をおっしゃるのぉ?」
いつもの甘えたような口ぶりで取り繕うスピナであったが全く通用せず、目も合わせず運ばれてきた紅茶を、オニキスは口にした。
「ぅんんん――もう良いです、気分が悪いわッ!!」
吐き捨てるように言ったスピナは恐ろしい形相で、食事の部屋から出て行った。
カッカッ――バタァァンッ!!!!
壊れそうな程に激しく閉められた扉の音と怒りの余韻が漂う中でオニキスは小さな声で、囁いた。
「皆にはいつも迷惑を、すまない」
「旦那様、問題ございません」
当主の悲痛な表情と声は誰にも聞こえない。がしかし、一番長くベルメルシア家で執事をしているフォルにだけは、伝わっていた(アメジストにとっては祖父のような存在である)。
「あ、あの!」
「ラミ、あっ! え~っと、
名を呼ぶアメジストはうふふと、笑う。結果的に助けられるような状況になったお手伝いのラルミは自分のせいで、アメジストがまた継母の標的となる事を案じ声をかけたのであった。
「どうしてです? 奥様を怒らせてしまっては、お嬢様の身が」
それを聞いた彼女は優しく微笑み頭を左右にぶんぶんと振ると、質問に答え始める。
「いいえ、ラミ。母の事、心よりの謝罪を。それから
そう言うとアメジストはラルミの手を取り、ギュッと両手で握った。
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