第217話 自信


分をじて」

「信じる……?」


 一瞬たりとも視線を外すことなく話す先生の瞳は深く、とても深い海のような濃い蒼をしている。その雰囲気と穏やかに流れ静かで哀愁漂う声にアメジストは、惹き込まれていた。


「そうです。誰かに命令を受けて生きるのではない。それがたとえ親であったとしても。貴女は貴女自身が思い考えることを、その心に強く刻んで――を持って進みなさい」


「自信を……」

(そうだわ。先生の言う通り、恐怖心から私はいつも、お継母様の言うことは絶対だと思って……無理にそう思うようにして、“生きてきた”)


「自信は持ち過ぎてもよくありませんが、持たないのもまたよくない。しかし貴女は自分の意見や考え、信念をしっかりと持った方ですから」


「先生……ありがとうございます」


 まるで肩の荷が下りたような気分で笑みを浮かべ返事をしたアメジストは先生の力強い言葉に、勇気づけられる。


「いいえ、私は何も。先程も言いましたが、これは『おばあちゃんの独り言』ですもの」


 そして「聞いてくれてありがとう」と、目を細め柔らかに微笑んだ。その表情は彼女の心身をホッと、安心させる。


「あら、もうこんな時間! お昼休みにごめんなさいねぇ」

「いえ、ありがとうございました」


 先生からの話(確認)が終わりアメジストは職員室から出ようと、入口に向かう。その時、再度先生に呼び止められた。


「アメジストさん。もし、お茶会の席に“マリー”という女性が来ていたら、その人に声をかけて下さい」


「マリーさん、ですか?」

「えぇ。歳は私よりも若いのだけれど、この学校で昔、一緒に働いていたの」


「はい、承知しました」

(何だか先生、少し寂しそう)


「そしてお茶会で何か困った事があれば、彼女を頼るといいわ。必ず、貴女の助けになってくれるはずだから」


「あ、えっと」

「うっふふ、大丈夫、安心なさいな。マリーは以前からベルメルシア家と関わりのある人です。それから、とっても温厚なのですよ」


 笑いながら嬉しそうに話す先生へ「分かりました」と笑顔で応えお辞儀をしたアメジストは職員室を、後にした。


 手を振り見送る先生はふと、呟く。


「きっと、この状況を良き方向へ。明るい未来を見つけられますように」


 まだ外部の者には知られていないはずのアメジストの魔力開花を、うっすら感じ取っていた先生は心の中で思う。


――昔のスピナさんは、もう此処にはいない。だからこそ私は、貴女の身の危険を感じるのです。

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