第164話 関係


 朝に起こったスピナとジャニスティの“揉め事”。その後、人が寄り付かないようにしてある納戸で彼女が会っていた謎の相手とは、まさかの人物。オニキスの商談相手である――カオメド=オグディアであった。


 二人の怪しげな関係が秘密裏ひみつりに行われていたことは、もちろん誰も知らぬまま。しかし今この場でジャニスティが偶然目撃した現実は変えられない、ベルメルシア家への裏切り行為となる。


(どういうことだ……そういえば商談は!?)


――『疑問が解けました!! 納得ですねぇ』

 その時パッと頭にぎる、カオメドが発した言葉。


「まさかあの男カオメド、旦那様に魔法を使った?」


 人を見る目は誰よりもある、オニキス。これまで上手く交渉を成功させこの家ベルメルシアを守り、そして街の物流はオニキスが中心となり支えてきた。


 その側にはいつも、辣腕らつわんの執事が仕えている。


(そうだ、フォルがいる。旦那様に限って、失敗はないだろう)

 一抹の不安を抱えつつもその信じる気持ちの方が、勝っていた。


 そんな中、愉快だと言わんばかりに嘲笑あざわらう声で話すスピナから二つ目の真実が明かされ、彼の耳にも聞こえてくる。


「ふ・た・つ・め。これを聞けば、わたくしと愛し合うことに、迷いはなくなるわ」

「ほぉ……何でしょう。とても興味が沸きますねぇ、スピナ様」


 そう言うと突然、カオメドの表情や眼が一変。遠慮がちに触れていただけの手はスルッと滑らかに彼女の腰に回り、抱き寄せる。そして今度は彼がスピナの耳元に愛撫し、艶気のある声で囁いた。


「んふ、待ってぇ。言うから……実はわたくしとオニキスに――“婚姻関係は成立していない”のよ」


「なッ!? それは本当ですか、スピナ様!!」


(――ッ!)

 ジャニスティの頭には殴られたような衝撃が、走る。これはスピナの嘘かもしれないと思いながらも内心、思い当たる節がいくつもあった。だが疑い深い彼は「これは、旦那様本人へ確かめないことには真偽不明だ」と呟き、そう簡単には信じない。


 同じように驚いた様子のカオメドの頬をゆっくりと撫でスピナは、答える。

「えぇ、本当ですの。オグディア……」


「いや、しかし! では何故、は貴女を?」


 カオメドの疑問は当然である。本当の後妻でもないスピナを『奥様・継母』として居座らせ、お手伝いだけでなくアメジストへの厳しい冷遇を当主であるオニキスが黙認していたのは何故なのか。


「やぁねぇ、おっほほ」

 質問をしたカオメドから彼女は身体を離すと扇を広げ、笑い始めた。

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