第250話 下校


「アメジスト様、迎えにはクォーツも来ておりますよ」


「まぁ、本当に!?」

 その言葉でアメジストの足取りはふわっと、軽くなる。


「はい、馬車で待たせています。大人しく待っていると良いのですが」

「うっふふ、ジャニスったら! そう、クォーツが来てくれて……嬉しいわ」


 待ち長くエデを困らせていないだろうかと多少心配気な顔で話す彼に「クォーツは何をしても可愛いから大丈夫」と笑いながら答えたアメジストの柔らかな笑顔は“妹”が来てくれたことへの喜びが、表情に出る。


「朝の事もあり、案じておりましたが。昼頃には回復を――」


 今後、人族ひとぞくの中でクォーツが暮らしていくため情報共有の意味もありジャニスティは「レヴ族と人族における“数字”の認識が共通していることが判った」とアメジストに、話す。


「では、時計が読めるように?」

「はい、少し教えれば吸収し自身で応用する能力がある。やはり賢い」

「そうなのね! これからたくさんお話出来るのが、楽しみだわ」

「ふふ、はい」


 今までは一人で馬車まで歩いていた、日々の並木道。 

 しかしこの日はジャニスティが来てくれた。微笑み返事をした彼が新鮮に見えアメジストの身体はポカポカと幸せを、感じる。


――初めて二人で歩く帰り道はとても和やかな空気に、包まれて。


(何にせよ、今こうしてお嬢様が笑っている)

「良かった……」


 ジャニスティはアメジストの笑む姿を見て安心し胸を撫でおろしていたが、束の間。小さく呟いた彼女の声にふと、気付く。


「あっ! そうだわ、今日……」

(早く帰らないと! お父様とのお約束が)


(ん、今日?)

 色々な可能性を考える彼は首を傾げアメジストの方を、見る。すると彼女は学校の鞄に着けている時計の針を確認し少しだけ、慌てていた。


(何か、予定があっただろうか……)


 いつも学校が終わり帰宅する頃が十六時でありその時間に今日は父、オニキスに呼ばれていたのだ。


 しかし朝食後に部屋を出る際、周囲に聞かれぬよう愛娘へ伝えていたオニキスの言葉は当然、ジャニスティにも聞こえていない――それは“親子”だけの“約束”である。


「そんなに急がれると、危ないですよ。足元にお気を付けください」

「えぇ、そうね」


 彼女にとって父と過ごす時間は特別であり、貴重だった。


 物心ついた頃から見てきた、忙しく夜遅くまで働く父オニキスの姿はその心と瞳に深く焼き付いている。そんな父が自分との時間を作るため苦労しているのではといつも気にしていた。

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