第251話 意義
――大切な、家族との時間。
容易に取れるわけではないからこそ、大事に思うのである。
シャラシャラ……。
(風の音かしら? さっきとはまた違う音色で)
そろそろ御者であるエデの待つ姿が見えてくる頃、アメジストは優しい風に頬を撫でられた気がした。
その一瞬で彼女の心はスーッと安らぎ「今、この胸いっぱいに感じる感謝の気持ちを、伝えておかなきゃ」と急に思い立ちジャニスティへ、声をかける。
「ねぇ、ジャニス……」
「はい、いかがなさいましたか」
彼がベルメルシア家へ来てから約十年。御嬢様の世話役として傍に付き、ずっと一緒に過ごしてきた大切な時間をアメジストはふと思い返し感じるがままの言葉を、口にする。
「いつも私の事、見守って……護ってくれて、本当にありがとう」
(ジャニス、貴方がいつも隣にいてくれるだけで、私の心はホッと安心するの)
恥ずかしそうにお礼を伝えるアメジストの顔がいつもより、大人びて見える。その美しい瞳に惹き込まれそして止まるかと思う程にジャニスティの心臓は一度大きく、高鳴った。
「――ッ!」
「どうしたの、ジャニス?」
(まただ、平常心を欠いてはならないのに。私は――)
「いえ、とんでもございません御嬢様。
――そう、貴女の傍にいることが。私の生きる“存在意義”なのだから。
「ジャニス……あの――」
「……?」
「おねぇさまぁぁー!」
「あ、クォーツ、走ると危ないぞ!! すぐに行くから、そこで待っていなさい」
ジャニスティの話した後、何か言いたげだったアメジストはクォーツの姿に笑むとその口元に右手を添え言おうとした言葉をグッと、飲み込む。そしてクォーツへ大きく手を振り「ただいまぁ」と、笑いかけたのだった。
タッタッタッたぁ……ぽふっ!!
「うふぅ♡ お姉様、大好き」
◇
いつものように乗り心地の良いエデの運転する馬車の中でアメジストは外の景色を、眺める。
しかしこの日違ったのは馬車内がとても明るく賑やかだ、ということだろう。その理由は妹となったクォーツがアメジストにくっつき「キャッキャッ」と覚えたての言葉を喜んで話し、笑い声が絶えなかったからだ。
「ねぇねぇ、お姉様」
「うん? どうしたの、クォーツ」
「私、とても楽しみなのです!」
「えっと?」
両頬を手のひらで包み込むと、ぎゅーッ!
嬉しそうに、答えた。
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