第252話 約束



――『可愛い子ね。大丈夫、私が助けます、守ります』


 大雨の夜に瀕死の状態で発見した見も知らぬ幼い子にアメジストが誓った、言葉である。


 自分の胸に抱き寄せ囁いたその瞬間にそう『私が絶対にこの子を守る』と心に決めた彼女であったが、しかし。


 現実はそう簡単にはいかない。


 この世界で意思を強く持ち生きてゆくためには『種族間に関する知識』が、必須である。だが学校で習得出来るのはどのような科目も初歩的な程度であり深く、追及しない。その為、彼女は「理解できていない事が多いのかも」と自身の知識や教養が乏しいことに、気付く。


 アメジストは今、様々な種族(サンヴァル種族やレヴシャルメ種族等)が持つ特徴や年齢、概念の違いについて考え悩み始めていた。




「あのね、お姉様! 今日は『えほん?』を読むです? 楽しいの!!」


「あぁ! 楽しみって」

(絵本のことだったのね!)


 えへへと無邪気に笑うクォーツのキラキラとした期待の眼差しに見つめられたアメジストは数時間前を、思い出す。



――それは、朝の出来事。


 これからたくさん勉強しないといけない、そう学校へ行く馬車でポツリと呟きギュッと自分の両手を握り締めた、アメジスト。


 その言葉を聞いたクォーツが「私もお勉強がしたい!!」という心意気を見せる。元気いっぱいやる気溢れる愛らしい“妹”の頭を撫でながら、彼女が言ったのは。


――『クォーツ。今夜お部屋で絵本を読みましょうか』


 見たことも聞いたこともない『えほん』という物、言葉にクォーツは飛び上がる程楽しみにしていた。


 満面の笑みで話すクォーツを見て「そんなに楽しみにしてくれているなんて!」とアメジスト自身も、嬉しくなる。


 それは誰が見ても仲睦まじい姉と妹の――“素敵な約束”。

 全身で喜びを表すクォーツのおかげで馬車内は優しい雰囲気に、包まれた。


「うふふ、そうね。私も一緒に絵本が読めるのが楽しみだわ」

「はゅあ~! 楽しみのです!」


 それでもアメジストの心が抱える悩みは「もっと自発的に学ぶ機会を」との思いが次第に、強くなるのだった。



 ベルメルシア家の書庫。そこには有名作家の本はもちろん種類豊富な本が所狭しと並んでいる。多くは未だ向学の念を持ち続けるオニキスの勤勉さで揃えられた堅く難解な、参考書等が主である。


 中でも人族ひとぞく以外の難しい言語が使われた書物もあり皆、読めない。


 そしてアメジストが幼い頃、気に入っていた童話や絵本も書庫で大切に保管されている。

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