第253話 謝意



 ガタンガタ、ゴトゴトゴト……。


 学校からの帰り道。

 ジャニスティとアメジスト、そして今日はクォーツも乗せて走る、御者エデの運転する馬車。


 朝と違い問題なく軽快に、走る。

「うむ、何事もなくお送り出来そうですな」


「あぁそうだな、良かったよ。エデには一番、気苦労をかけただろう……」


「いえいえ、とんでもない! 一番大変だったのは、クォーツお嬢様でしょう」


 ジャニスティの労う言葉にエデは「ここ数日で変化した過剰な心痛は見せなくとも感じます」とクォーツの事を、気遣う。


「エデ、私も思っています。貴方の的確な判断が、いつもベルメルシア家の危険を回避し、救ってくれているのです。本当にありがとう、心より感謝を」


 そう真剣な表情で言うアメジストの瞳はまたキラッと眩い程に、煌めいていた。


「おや、これは――温かい光を生み出される」

 エデがボソッと呟いた心の声は誰にも聞こえない程に、小さい。


(ベルメルシア家に継がれるお力を、アメジスト様が完全開花させるのも、そう遠くはなさそうですな)


 運転するエデは背中越しでもその力を感じ取り、嬉しそうに微笑んだ。


「ジャニスティ様の治癒魔法もさることながら、しかし。クォーツお嬢様自身のお力もありましょう」


「確かにそれは私も、クォーツの力について一目置いている。この子自身もだが、とにかく周囲への影響力が相当ある、と――……ん?」


『シィーッ!! うふふ、眠っているわ』


 ベルメルシア家の屋敷までもう少しの所まで来た頃。たくさん話し、はしゃぎつかれたのか? クォーツはアメジストの膝枕ですやすやとお昼寝を始めた。


「あの日、苦しんだ時間が嘘のようだわ」

「はい、本当に」


 可愛い妹の寝顔にアメジストとジャニスティは顔を見合わせクスッと幸せを噛みしめるように、笑む。


「左様でございますな。体力のみならず心身ともにお早い回復力……そして強いお心には頭が下がる思いですがね」


 エデも笑み答えると馬車の揺れに最大限の気を使いながら、進む。


「クォーツ、お勉強をとても頑張っていて驚いたわ」


 緩やかな時の中、二人の会話は自然とクォーツの“話し言葉”について話題となる。


「はい、私も随分案じておりましたが、思った以上に話せる。堂々とした受け答えに、驚きました」


「自己紹介も、なんて立派な立ち振舞いだったことでしょう。屋敷の皆様にも無事に迎え入れられて、本当に安心したの」


 そう話した彼女はそっと、クォーツのおでこに手をかざした。

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