第417話 物音



 ベリルの身体が金色の光粒に囲まれ少しずつ消え、姿が見えなくなるのを見届けたジャニスティはすぐに気持ちを切り替え出口へと、急ぎ足で向かった。出口扉周辺に気配がないのを扉越しに確認し素早く出ようと開けた、次の瞬間――。


 ガチャ、キィ……。


「――っ!?」


 目の前に見えた予期せぬ光景に思わず足が、止まる。


「此処は……備品倉庫?」


 驚きの理由。

 それは隠し扉を抜けた先が以前数回調査した時とは全く違う場所へと、着いていたからだ。


(いや、間違いなく書庫の隠し扉から真っすぐ、同じように進んだはず)


 しかし到着した場所が違うという極めて不可解な状況に危険がないかと、警戒する。


「何も、不穏な空気は感じないが」

(一体、どうなっているんだ?)


 この時の彼はまだ知らなかった。

 アメジストも同様、継母スピナに見つからぬようジャニスティの部屋から自室へ戻った際に隠し扉を通り体験した事――出口の扉を開けるとなぜか自分の部屋にあるクローゼットの中に出たという不思議な出来事の話を。


 そのため今の彼にとって「これは現実なのか」という驚きの表情が、隠せないでいた。


(考えるのは後だ。まずは此処からの脱出を)


 コツ――。


 隠し扉から着いた出口である備品倉庫の床へと右足を出した、その時。



 ガチャッ、キィ~……。



「!!」

(誰か来た)


 瞬時に自身の気配を消すジャニスティ。そしてこのまま隠れておくか、それとも何食わぬ顔で姿を見せこの備品倉庫から退室するのか。決めかねるジャニスティは足音を立てないよう細心の注意を払い物置棚の奥まで行くと光の当たらない場所を探し身を潜め、様子を窺う。


 こつん、こつん、こつ……。


(女性のようだが……お手伝いの誰かだろうか)


 日々聞き慣れたその柔らかい靴音は屋敷内ですれ違うお手伝いたちが履いている靴だろうと、察した。

 しかし問題はその入ってきた人物が何者かによって彼の動きは変わる、ということである。



 がたん、ガタっ。

「よいっしょーっと」


(聞いたことがある……が、誰だったか)


「ふぅ……あとは、これとこれとこれ……。長いこと使っていなかったから、汚れと傷と割れていないか確認しておかないと」


(食器を取りに来たのか? しかし、なぜ)


「それにしても、本当にお茶会なんて……ベリル様の気に入っていた皿は、使いたくないなぁ」



 ギシッ……。



「そ! そこに、誰かいるのですかッ!?」



 コツン、コツ――。


「……」

 ジャニスティは前に出るとその姿を見せた。

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