第5話 救助


 ベルメルシア=アメジスト、十六歳。

 腰まである美しい髪はゆるくクルッと巻いた栗色で、桃紫色の大きな瞳は誰からも愛され――そして誰もが羨む、端正な顔立ちをしている。



「グスッ、ど、どうしよう」

 

 その頼りなく弱々しいアメジストの姿を見たジャニスティの表情は険しくなり、強い言葉をかける。もちろん彼女の事を思い、娘のように想う愛情があるからこその厳しさだ。


「しっかりして下さい、お嬢様! 命を助けたいという貴女様の意志は、そんなものだったのですか?!」


 ハッ……!!


 そう、アメジストはまだまだ子供である。しかし命の重さを知っている彼女だからこその姿。現実と向き合った瞬間、突然の恐怖が心身全身を覆うように襲ってきていたのだった。


――“命”を助ける。


 簡単ではない、勢いで出来る事ではないのだから。ジャニスティには彼女の心奥深くにある強き芯を感じたからこそ「一緒に助ける」と心に決めたのである。


「……はぃ、グスッ、そうです。ごめんなさい、ジャニス」


 崩れそうになっていた気持ちを奮い起こし涙をぬぐうと、自分の両の頬をパシッと叩く。気合いを入れたアメジストの表情は一変し、真剣な眼差しと潤んだ瞳はその子を助けた時と同じ。決意に満ちた目と顔つきに戻っていた。


「ジャニスお願い。これからの流れを――私に指示を」


「承知致しました」


 そう返事をしながら、彼女の顔を横目で確認していた。


(落ち着かれたようだ)

 これなら任せられると判断したジャニスティは、指示を出す。


「ではその、濡れたお召し物を着替えさせていただけますか? そちらはお嬢様が適任かと。私は、医者の手配をして参ります」


 まだ少し手が震えている彼女の気持ちを気遣った。そして冷静さを見失わぬよう、ゆっくりと優しく話す。緊張する彼女の肩に彼は手を置き、バスタオルを二枚渡した。助けた子とアメジストの分である。


「あ、ありがとう……えっと、ジャニス。お洋服をお借りしてもいいかしら?」


 屋敷の者たちに見つからぬようにと、ジャニスティの部屋へ運び込んだ。そんな中で自分の部屋へ洋服を取りに行く事など到底できない。それはとんでもないリスクを伴う。そこで彼に洋服を借りたいと申し出たのだ。

 

「えぇ、どの服をお使い頂いても構いません」


「ありがとう」


 アメジストは急いでクローゼットへ向かい、すぐ手前にあった青空のような水色のカラーシャツを手に取る。


「大人の洋服……」


 その小さな体を包むには十分だった。

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