第227話 祭典
◇
スピナたちとは逆の方へ向かって歩いて行ったオニキスとフォルの二人は服飾の祭典開始までの間、街の中を偵察する。仕事を急ぎ予定よりも早い時間に来たこともあり久しぶりにゆっくりと街中の店を、見て回った。
そこに溢れる笑顔と楽しそうな笑い声。喧嘩するように言い合う者たちの姿さえも「発せられる“言の葉”には厳しさと優しさが溢れ、愛を感じるようだ」と、オニキスはその何気ない日常に感謝する気持ちでいっぱいになった。
「改めて思うよ。この街に住む皆は、本当に心温かい」
「はい、私もそう感じております」
嬉しそうに目に映る光景を眺め話すオニキスの言葉にフォルもまた穏やかな表情で応え、そして。
「この平和を、皆の笑顔を。今後も私たちは守っていかなければならない」
「はい、旦那様。仰せのままに」
以心伝心――多くは語らない。
それだけで伝わり、聞こえる言葉以上の“言の葉”で通じ合うのである。
『さて皆様、お待たせいたしました! 今年もたくさんの店が参加して下さっている服飾の祭典。只今のお時間より開場です!! どうぞ、楽しんで行って下さい――……』
それからしばらくして祭典開始の放送が、雲一つない青空に響き渡る。
恒例である他の街から招いていた来賓の話や開会の挨拶が終わりまた、オニキスも依頼を受けていた挨拶を一言すると、しばし招待客との談笑を交わす。
その後、約束をしていた洋服店へと向かう。
準備万端で来店を待っていた店主はまず、カオメドの件を改めて詫びるとオニキスから「もう気にしなくて良い」と満面の笑みで言われ、安堵する。
「それよりも、私の可愛い愛娘への贈り物は見繕ってくれたかい?」
「は、はいっ! もちろんです!! エデさんにも手伝って頂きまして、もう本当に素敵な取り合わせでございますよ」
「ほぉ、エデが? はっはは、さすがだな。アメジストに似合う色だ」
幼い頃からアメジストを見守ってきたエデ。これが哀愁漂う彼の見かけとは違い流行に敏感でかなりの目利きであり、何を任せても素晴らしく洒落た感性を持つと評判だ。
そのことを知っていたジャニスティはあの夜、クォーツの服をエデに依頼。『お安い御用』と答えたエデは調達場所も限られた夜中にも関わらずジャニスティが伝えた以上の素晴らしい品物を、時間内に見事揃えた。
そして音による危険を回避させるための“布製の袋”など細かい配慮をした――機転が利く妻も様々な場面でエデを支え、活躍しているという。
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