第17話 不安


 あと三メートルほどで音がした廊下の角に到達する。ゆっくりゆっくりと、用心しながら歩くアメジストだったが、急に目の前を何か白い物体が通り、驚き立ち止まった。


(え、何かしら?)


 ぴと――。


「うぅにゅ?」


 突然足元に何かがくっつき、可愛らしい声がした。視線を落とすとふわふわの純白の羽に空色の長い髪。アメジストは警戒心から瞬間的に力が入る。が、すぐに何か気付き熱くなる胸の鼓動を抑えながら、落ち着いた声で話しかけた。


「あなたもしかして、レヴシャルメの子かしら?」


 その問いに顔を上げると可愛いくりくりの澄んだガラスのような瞳で見つめる。アメジストは目が合い視線を外せなくなった。そのままでしばらく見つめ合った後、まるで返事をするかのように羽を動かし声を出す。


「はふ!」


「そう? そうなのね! まぁこんなに元気になって、羽もなんて美しいの?!」


 アメジストが一目で昨日の子だと分からなかったのには理由があった。それは見た目が全くの別人のようになっていたからである。短かった髪は長く白銀髪は輝き艶のある空色に。そして何より驚いたのは背の高さである。


(この子、姿も違うし昨日より、ちょっと大きくなった気がするわ)


「うぅは?」


「あっ、ごめんなさい。そうね、助かって本当に良かったわ」


 そう言うとアメジストはその子を優しく、しかし助かった命を絶対に離さないという思いを込めながらぎゅうっと、抱きしめた。心からの喜びと、これからずっと何があっても自分が守っていくという、決意の気持ちで。


「ぅは♪」


 嬉しそうな声を上げ、力いっぱい抱きしめ返してくるその子は温かく安心する。その全てが何故かとても愛おしく「いつまでもこうしていたい」そう感じさせるのであった。


――でも、どうしてこの子だけが?


 アメジストは喜びの中で一抹の不安を抱えながら、その子に聞いてみる。


「ねぇ、あなたの命を救ってくれた、あなたと一緒にいたお兄さんはどこに行ったのかしら?」


「……」


 何も言わずにただアメジストの表情を見つめるその子は、今度は突然走り出す。


「エッ? ちょっと待って!!」


 追いかける勢いで廊下の角を曲がった。そしてその子が向かった先はもちろん、一番奥にあるジャニスティの部屋だ。開いた扉の前でボーっと立ちすくむレヴシャルメの子は、中へは入らず入り口で部屋の中を見つめていた。


「どうしたの?」


 声をかけるその子は洋服の裾を引っぱりアメジストを連れて彼の部屋に入った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る