第180話 包泣
◆
――クォーツ自身にも降りかかった恐怖、そして目の前で起こったであろう
ジャニスティが
それは彼自身も片翼を失うという命の危険を冒してまでも試みた、唯一助けられる方法であった。
あの瞬間、救助するにあたり優先されたのは『レヴの子が持っていたはずの羽』を再びその背中に、蘇らせること。その為、傷は治っていても切り傷のような痛々しい傷跡までは綺麗にすることが出来ず今もまだ、小さな身体にはうっすらと跡がある。
例え治癒魔法で身体の傷を消すことが出来たとしても――クォーツが負った心的苦痛までは、治すことは不可能。その生々しく鮮明な記憶は幼心に“悲しく”深い恐怖として、残っていた。
◆
(こんな時、どうしてあげれば良いのだろうか?)
そのジャニスティの反応は、無理もない。
彼が物心ついた時すでに両親も兄弟も、傍にはいなかったからである。
――私は、本当の家族というものを知らないのだ。
それでもオニキスと出会いエデからの指導を受け、このベルメルシア家に来てからの時間は彼の考えそのものを変える、大きなきっかけとなっている。
「……お姉様」
ふと聞こえてきた、クォーツの声。それはアメジストがいない寂しさから発せられた言葉だろうか? その一言だけ呟くと息をスーッと吐き、頬には涙をぽろぽろと流しながらも静かに目を瞑り、自身の魔力を使い始める。
――『ポぅ……』
その微弱でキラキラとした温かな光の粒は精神を落ち着かせ冷静になろうとしているクォーツの強い思いが、伝わってくる。そして抱き締めているジャニスティの心にも響きそれが手に取るように、解った。
「大丈夫だよ、クォーツ。お嬢様には、すぐ会える」
思いのまま泣くことはこのくらいの子供には必要な感情だろう。しかしそれを出さぬよう懸命に涙を
(表に“自分の感情を出さぬように”という、この姿)
――もしや、これはレヴシャルメ種族の教えの一つなのか?
彼はそんな憶測を頭の中に浮かばせ考えていると急にふわりと柔らかなものを右手に感じ、身体を離す。
「お姉様に、会いたいな」
温かなその小さく可愛い手と心地良い声にジャニスティは妹の顔を、
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