第181話 心細
「お嬢様は、夕方には帰るよ」
「そうですのね! あとね、お兄様! “えほん”を早く、見たいの!」
クォーツはるんるんと両手をバンザイするように上げ、喜ぶ仕草を見せた。
――が、しかし。笑顔で細めるその瞳にはまだ、悲しみの涙が残る。
「絵本……あぁ、そうだったな」
(
ギュッと胸が痛く息苦しくなるような気持ちを感じたジャニスティは何もしてあげられない自分の力不足を、悔しく思っていた。しかし目の前にいる妹クォーツからは頑張りたい、強くあろうと自身に降りかかった苦難を今、乗り越えようとしている心を感じる。
(情けないな。今は形だけだとしても、私は兄だ。こんな頼りないことで、どうするのだ)
彼は揺れる弱い心を鼓舞するように自分の手を、固く握る。そしてゆっくりと
「なぁ、クォーツ。お嬢様に早く会えるように、お迎えも一緒に来るか?」
「キュあ! 良いですの!?」
「はは。よしっ! じゃあそれまで、部屋でお利口にして勉強をするんだ」
すっかり明るい雰囲気が漂う、ジャニスティの部屋。ソファベッドから降りたクォーツはご機嫌に「はぁ~い」と返事をするとにっこり笑顔で、一言。
「ねぇ、お兄様ぁ。お兄様もお姉様に、早く会いたいですの?」
「――ッ! 何を?! そんなことは……ないが」
「えぇ~!? 会いたい、会いたぁーいですのぉー!」
「あ、会いたいとは……コホンッ!! そんな、いつも通りだ。何も変わっちゃいない」
クォーツの言う『会いたい』は『寂しい』でもあるのだろう。
そんなことを心の中で思うジャニスティであるが妹の思わぬ『会いたい』に頬を赤らめ焦りながら自分は違うと、否定をする。もちろん当の本人――クォーツに兄を
(全く……何を言い出すか分からないな)
彼はフッと微笑むと髪を優しく撫で、良い子良い子。
気持ちよさそうに喜ぶクォーツは先程まで泣いていたのが嘘のようにキャッキャと楽しそうに、笑う。その声は窓の外から聞こえる小鳥の音色と美しく、同調していた。そして彼の耳は綺麗で透き通る妹の声に、安心感を感じる。
――何だろうな、この温かく満たされるような気分は。
彼が幸せを感じたのは、他でもない――クォーツの魔力なのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます