第12話 時間


『レヴシャルメ』。

 夢(夢想)の種族と呼ばれ、レヴの魔法は夢を見せる力があると言われている。美しく輝かしい羽(翼)を背中に持つと憧れの種族とされる一方で、真実は隠され身内以外に羽を広げた姿は披露しないという、その謎めいた存在に一部では恐れられる。一体どのような力があるのか? それは他種族には明かされておらず、未だに秘密の多い種族である。





「はぁ……大丈夫かしら」


 ジャニスティ、そしてあの子がどうなったのかが気になりどうしようもない。「寝なきゃ」そう思い目を瞑ると、昨晩の出来事が映像のように頭の中で流れ始め考えてしまうのだ。結局、アメジストは一睡も出来ずにとても憂鬱な気分で朝を迎えていた。


 すると扉を叩く音がした。あぁいつもの時間だと彼女は項垂うなだれてしまう。


 コン、コン、コン、コン。


「おはようございます、アメジストお嬢様。朝のご挨拶に参りました」


 ゆっくりと扉を叩く音と、外から聞こえてくるのは抑揚のないハキハキとした声。毎日決められた時間に、決められたセリフで、お手伝いの一人がお嬢様を起こしに来るのである。アメジストはいつも通り明るく返事をすると、感謝の気持ちを伝えた。


「おはよう。いつも、ありがとう」


「いえ、恐れ入ります」


 淡々と話す声。挨拶が終わると早々に、顔を合わせる事もなく戻っていくお手伝いの足音。「入って」と迎え入れる言葉がない限り勝手に扉を開け入る事は、まずない。


 どんなに明るく挨拶をし、楽しく話しかけたとしても返ってくる返事は同じ。仮にこちらから扉を開け部屋に通したとしても、会話は必要最低限の返事のみ。笑い声のある話などは一切してもらえなかった。


 そんないつもの冷え切った挨拶のあと、アメジストはベッドから起き上がった。暗くなってしまいそうな気持ちを奮起するように、勢いよくカーテンを開け朝陽を浴び目を細める。そしてジャニスティから念を押された、ある約束事を思い返していた。



『明日の朝、私がいない事を必ず不審がられるでしょう。そこで魔法の言葉があります……――それだけで問題ありませんので。他には何もご発言なさらぬよう、お約束を』


『え、えぇ……分かったわ』


『よろしいですね? お嬢様、約束です』


 ――必ず、守って下さい。



(ジャニスは、あぁ言っていたけれど)


「私一人で、お父様とお母様に説明を? そんなの……とても不安だわ」


 アメジストには過去から焼き付いた不安と、拭えない恐怖心があったのだ。

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