第399話 疎通
「ベリル様。もう一つ、お聞きしてもよろしいですか?」
『えぇ、もちろんですわ。お気になさらず、何でも仰ってください』
ゆっくりと落ち着いた声色で応えるベリルはオレンジ色のマリーゴールドが描かれた頁からスッと目を離すと、天色の瞳を真っ直ぐ見つめ返した。
(お嬢様とは違う、美しく澄んだ
――だが、不思議と安心できるのは何故だろう。
ベリルの眼光がどんなに鋭く感じても視線からは温かな優しさが木漏れ日のように穏やかで、包み込まれる。その雰囲気に触れ感化されたジャニスティは緊張しているのも忘れ全く気後れすることもなく平常心を保ち、言葉を続けていく。
「ありがとうございます、ベリル様。実は昨夜の会合にて、私がこの場所を見つけ中へ入ったという事実を聞いた旦那様は『嬉しい事だ』と言い、微笑まれた」
聞いたベリルはニコッと笑い返す。
「旦那様はとても優しい御方です。私が起こしたこの勝手な行動について咎めるどころか、気にしないよう心遣ってくれていたのだと思います。そして、こうも言っておられた」
『えぇ……オニキスはなんと?』
「この書庫全体も指しているものと思いますが――『隠し扉の空間を護っているのはベリルの力だ』と。そして……」
話を止め浅い深呼吸をすると彼は少しだけ、黙りこくる。
『……そして?』
ずっと見守るような視線を送っていたベリルの声がその沈黙を破り、それを皮切りに再び彼は話を再開した。
「えぇ、あの、すみません。そして旦那様は、
ジャニスティの話に彼女は「そうですか」と少しだけ肩を落とし溜息混じりに、応える。
『皆様には、長くご心痛をおかけしてしまっていること。そして解決の糸口も見えず先の希望を持たせてしまい、本当に申し訳なく思っています』
シュンと悲しそうに眉を下げたベリルの瞳は暗く陰りせっかく魅せた麗しき姿は今にもまた、消えそうになってゆく。
「そのようなことは、決してありません。私の知る限り、屋敷の皆は今でも貴女様を敬愛し、感じています。もちろん、アメジスト御嬢様も」
『……ありがとう』
ベリルの心の内を垣間見たジャニスティは力強い言葉をかけていた。そんな彼の真摯な姿勢は構えていた彼女の心を動かし、ベルメルシア家を守る者として持つ警戒心を自然と溶かしてゆくのだった。
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