第400話 試考


「私は婉曲的な言い方はどうも苦手ですし、緩慢なのも性に合いません。ですので、ベリル様。単刀直入に申し上げます」


『はい、どうぞ。私の言葉でお答えしましょう』


 ジャニスティは現在の時刻を確認するのも忘れこの好機を逃すまいと、話し続けていた。


「ありがとうございます。これからお話するのは昨夜、旦那様がとある記憶を辿っていくうちに思い出したとの内容にございますが」


『オニキスの、記憶……』


「はい。十六年前の夜、ご出産後のベリル様がお休みになられていた枕元。そこに置いてあったという花についてです」


 彼は腕に抱いたままの本――『花の舞う言葉たち』のベリルが開いた頁に描かれている“オレンジ色のマリーゴールド”にそっと、自分の右手のひらを添え彼女に視線を合わせ尋ねる。


「それはこちらの花、マリーゴールドだったと」


『……えぇ、そうですね』


「お色もこの、オレンジ色でしょうか?」


『間違いありませんわ』


 淡々と質問に答えるベリルに対し、急ぎ焦る気持ちを抑えながらも少しずつ確認を続け真実へと近づいてゆくジャニスティ。その間、彼女の変化を一瞬たりとも見逃さぬまいと注意深く観察し、窺っていた。


 そして彼は、問う。


「この花……美しきオレンジ色のマリーゴールドを貴女様の枕元に置いたのは、一体誰なのですか?」


『――!?』


 

 瞬間、空気の流れが止まり静寂に包まれた隠し扉内の空間。


 予想だにしない彼からの質問にさすがのベリルも目を見開き少々驚いた反応を見せる。その心奥では「なぜ彼がそのようなことを聞いてくるのか」とその問いの真意を、推測していた。


 そしてジャニスティも同様に彼女からの答えを待つ間、自分の発した言葉からベリルがどのようなことを察し沈黙しているのかと思案する。


 しばらくしてベリルは再び目を細め優しく微笑み返し、口を開く。


『その“誰”とお尋ねになるのに、何か理由がおありですの?』


「はい、引っかかることが。しかしこれは私の想像によるものですが、よろしいですか?」


『ぜひ、お聞かせください』


「では――ベリル様は当時、ご自身の希望で信頼の置ける何者かへ依頼をなさり、この花を用意をさせたのではないですか?」


『……』


「貴女様が――“永い眠り”につかれてしまわれるその少し前に実行するためその者へ指示なさった。違いますか?」


 お互いが感じている考えや思いが果たして、同じものなのか? まるで試し答え合わせをするかのように二人は、話していた。

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